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※二次創作小説です。
『文豪ストレイドッグス』の世界観をもとにした創作となります。
昼下がりの探偵社は、窓から差し込む陽光でやけに平和だった。
「太宰さん、依頼です」
国木田君の声に、私は机に突っ伏したまま片目だけを開ける。
「心中のお誘いなら喜んで受けるのだけれど?」
「違います。工場から異様な匂いがする、という通報だ」
異様な匂い――なんとも探偵社向きの香りがするではないか。
ソファに寝転んでいた江戸川乱歩さんが、もぞりと起き上がる。
「ふーん。匂いねぇ……まあ、行くよ。太宰、ついてきな」
「光栄ですね、名探偵殿」
私は軽く礼をしてみせた。
港にほど近い、使われていないはずの古い工場。
鉄錆の混じった風の中に、確かに妙な匂いが漂っていた。
甘い。だが、その奥に焦げたような刺激臭。
「お菓子工場だったのかな?」と私。
「違うね。これは――隠してる匂いだ」
乱歩さんは眼鏡をかける。
その瞬間、空気が変わる。
「……なるほど。面倒くさいなあ」
扉は半開きだった。
私たちは慎重に中へ入る。
次の瞬間。
目の前に広がったのは――
大量のお菓子の山。
色とりどりのキャンディ、チョコレート、クッキー、マカロン。
山、山、山。
まるで夢の国。
乱歩さんの目が、一瞬だけ、きらりと輝いた。
「……」
沈黙。
「罠だよ、太宰」
即答だった。
「甘い匂いが強すぎる。しかも配置が不自然。出入口を囲むように置かれてる」
私は肩をすくめる。
「残念。乱歩さんの甘味パラダイスはお預けですね」
「ふざけてないで、ドアの後ろに回れ。今すぐ」
声が鋭くなる。
私は言われた通りに身を翻す。
その瞬間――
ボンッ!!!
凄まじい爆発音。
お菓子の山が一斉に弾け飛び、甘い破片と黒煙が空間を埋め尽くす。
私たちはドアの陰に身を伏せていた。
熱風が背中をなめる。
やがて静寂。
残ったのは、焦げ臭い匂い。
「これが……異臭の正体、ですか」
「うん。火薬と砂糖の混じった匂い。隠すつもりだったんだろうけど、失敗してる」
乱歩さんは煙の向こうを見据える。
「いるよ。犯人」
工場の奥。
煤けた作業台の前に、ひとりの男が立っていた。
目は虚ろ。
だが覚悟は決まっているようだった。
「どうして分かった……」
「簡単だよ。君の異能力だろ」
乱歩さんはあくび混じりに言う。
男の異能力――
爆弾を“菓子に見せる”視覚偽装。
本来なら、本物と見分けはつかない。
だが。
「爆弾の材料を扱うの、下手すぎ。昨日失敗して焦がしただろ。換気もしてない」
男の肩が震える。
「……資金が必要だった。組織に売るつもりだった」
しかし、爆弾製作中の事故で異臭が発生。
通報されると知り、慌てて能力で偽装した。
探偵社が来ると分かっていたからこそ、甘い罠を張ったのだ。
「爆発に巻き込むつもりだったのかい?」
私が問う。
男は黙る。
乱歩さんは眼鏡を外した。
「太宰、あとは任せる」
「はいはい」
私は一歩前に出る。
「君の能力は無効化させてもらうよ」
手が触れた瞬間。
お菓子に見えていた残骸が、無骨な爆弾の破片へと姿を変える。
男は膝をついた。
夕暮れ。
工場は警察に引き渡された。
「……せっかく甘い匂いだったのに」
乱歩さんが不満げに言う。
「本物のお菓子、買って帰ります?」
「当然」
私はくすりと笑う。
爆弾は甘くない。
だが人間は、甘さに弱い。
だからこそ、罠は成立する。
「太宰」
「はい?」
「さっき、ちょっと反応遅かったよ」
「おや。乱歩さんが守ってくれると思ってましたから」
じっと見られる。
「……次は自分で動きな」
「善処します」
横浜の風は、まだ少し焦げ臭かった。
けれど隣には、世界一の名探偵がいる。
だからまあ、今日は生き延びてしまったということで。
――本当に残念だ。
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