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#ファンタジー
#ざまあ
設楽理沙
辛そうに時々言葉を詰まらせながら話してくれた歩くんは過去の話を教えてくれた。
いつも明るい笑顔の歩くんがずっと抱えていた苦しみに全く気づくことなく、甘え切ってしまっていた。
私は握る手の力を更に強くする。
「俺、自分が自分じゃなくなりそうで怖いんだ。誰なのかわからなくなってくる。俺は……歩なのに。歩美じゃないのに。最後に母さんに歩って呼んでもらったのがいつだったのか、もう思い出せないんだ」
歩くんの表情が苦しそうに歪み、大きな目が僅かに潤んでいる。
「どれが本当の自分なのか見失って真っ暗闇にいるみたいで……すげぇ怖い」
そう言って歩くんが力なく項垂れた。
「俺って必要なのかって自問自答を何度も繰り返すんだ……母さんは俺じゃなくて歩美が必要なんだよ。……俺は歩美としてじゃなくて、歩として必要とされたかったのに」
握った手が微かに震えているのがわかる。
どうしたら私は歩くんを暗闇から救い出せるんだろう。
もどかしい。
私にできることはなんだろう。
「目に映っているはずなのに母さんが見ているのは俺じゃないんだ。……もう限界なんだ。俺なんて本当は必要とされていないってずっとわかってた。母さんにとって息子はいらない存在だから」
「あのね、歩くん」
気づけなくてごめんね。本当は歩くんも助けを求めていたのに。
それなのに、自分の辛さは一切見せずに真っすぐに私のことを助けてくれてありがとう。
歩くんが自分がわからなくなるなら、私たちが何度でも教えるよ。
歩くんがどんな人か、どれだけ私たちがその笑顔にどれだけ元気づけられてきたか。
「私にも潤にも実里くんにも、和葉にも武蔵先輩にも歩くんが必要なんだよ。それは他の誰かじゃなくて。歩くんじゃないとダメなの」
ぽろりと大きくて綺麗な瞳から大粒の涙が一滴落ちた。今まで堪えていた想いが一気に溢れ出しているように思えた。
きっと彼は今までずっと色々なことに耐えて生きてきたんだ。