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おまる
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理性が必死にブレーキをかけようとするが
彼に触れられている場所から溶かされていくような感覚に抗えない。
そんな私の葛藤を知ってか知らずか
彼は満足げな笑みを浮かべ、強引に私を椅子へと促した。
「さ、冷めないうちに食べましょ!」
目の前に並べられたのは、色彩豊かな朝の宴。
艶やかなホワイトソースがかかったクロックムッシュ風のトーストに、湯気を立てるコンソメスープ。
促されるまま、震える手でフォークを握り、一口。
……驚くほど、優しい味がした。
「……っ、おいしい…」
「本当ですか?よかったー!」
安堵したように顔をほころばせる彼。
その笑顔を眩しく感じながら
私は自分が抱き始めた「名前の付けられない感情」に
もうしばらく蓋をすることができそうにないことを悟っていた。
いつもは「シゴデキ」の鎧を着て、誰にも踏み込ませなかった私のプライベートな空間。
そこに、彼という異物が、驚くほど自然に溶け込んでいる。
「……ねえ、高瀬君」
「なんですか?」
「……高瀬君、は…いつも私を理想の上司みたいに慕ってくれるけど…幻滅してないの?私の過去を知って…」
「先輩って変なこと聞くんですね」
高瀬君はスプーンでスープを一匙すくいながら、あっけらかんと言った。「…過去がどうだろうが先輩が仕事にひたむきに向き合ってて、かっこいいっていう事実は変わらないじゃないすか」
さらりと告げられたその一言が、私の心臓を鷲掴みにする。
「それに……俺にとっては、理想の上司である前に、ちゃんと守りたいと思う人ですから」
「……っ!」
直球すぎる言葉に、頬がかっと熱くなった。
「…そ、そういうのいいから。」
「先輩…顔赤いですよ。照れてるんですか?」
「なわけないでしょ!」
悪びれる様子もなく言う高瀬君を見て、私は慌ててコーヒーに口をつけた。
ブラックのはずなのに、なぜだか甘い。
この男の「普通とは違う」行動に、私の常識はどんどん覆されていくようだった。
◆◇◆◇
「……ありがとう。ご飯、本当においしかったわ」
「どういたしまして!またいつでも作りますんで、遠慮なく言ってくださいね」
「え、またって……」
「だって先輩、放っておけないですし。それに」
彼はそこで一度言葉を切り、照れ臭そうに笑った。
「先輩と一緒に食事するの、なんか新鮮で、楽しいんです。だから……迷惑じゃなければ、また俺が作りに来てもいいですか?」
───守るって、そういう意味?
一瞬、そんな疑問がよぎったけれど
その無防備な笑顔を見ていると
深く考えるのも馬鹿らしく思えてきた。
「…気が向いたら、ね」
「はい! 約束ですよ」
まるで子どもが宝物を見つけたかのような屈託のない笑顔。
心臓を鷲掴みにされながらも、私は小さく微笑み返した。