「それじゃあ、これから私たちと一緒に行動するの?」
列車を降りる時、アリシールがセルディアに聞いた。
「うん、そのつもり。」
「一人で旅しろよ!こっちは二人で目一杯なんだぞ!」
アルレイドが必死に拒む。
「アルレイド、魔女狩りに狙われたいの?」
セルディアは意地悪そうに笑った。
「狙われたくないけど、売られたケンカは買ってやる!」
威勢だけはいい。
「そんじゃ、私とアリシールで行動だね。じゃあねアルレイド。殺されないように精々頑張って。」
アリシールはセルディアに引っ張られながら、後ろの方に遠ざかっていく駅とアルレイドを見ていた。
「待てよ!セルディア!アリシールに拒否権は無いのか!」
アルレイドは、セルディアとアリシールを二人きりにしたくなかった。しかし、アリシールは何も言わない。
「離れないって約束したじゃねーか…」
アルレイドはうつむいた。
「アリシールの…嘘つき、」
アルレイドは自分の視界がぼやけたような気がした。
争いから二年も経ったが、アルレイドにとっては、昨日あった事のように記憶に焼き付いていた。自分の家が火に呑み込まれる瞬間の事、アリシールが二日間見つからなかった事、アリシールを探している間、ずっと心細かった事…
「セルディア…。私の信用してない奴にアリシールを任せられるかよ!」
二人とセルディアが最後に会ったのが、争いの一週間前だったのは、セルディアが東アズベールに引っ越したからだった。アルレイドは後から気付いたその不信感から、セルディアを信用していなかった。
「アリシールー!待ってろよー!」
そう言ってアルレイドは、セルディアとアリシールが消えていった方向に走り出した。
「ここまで来れば、流石に追って来ないよね。」
セルディアは、路地裏に入ったところで言った。
「…セルディア、やっぱりアルレイドを連れて来ようよ。」
アリシールは言いづらそうに言った。
「あんなん、一人でも死なないでしょ。」
「でも!アルレイドと離れないって約束したから!」
アリシールがそう言うと、セルディアがアリシールの手首を強く掴んだ。
「ここまで来たら手遅れだよー!残念でーした!」
急にセルディアの声が変わった。
「セル…ディア…?」
アリシールは青ざめた。声も震えている。
「何で私を信用したの?幼馴染みだから?」
セルディアは笑っていた。
「…しばらく大人しくしててください…」
後ろから声が聞こえたかと思うと、アリシールは誰かに殴られ気絶した。
「ありがと。アリシールは私が運ぶから、アルレイドの始末よろしくー。えっと…名前は…」
そう言いながら、セルディアは口と目が三日月形に裂けた仮面を付けた。
「ヨーラです…」
名前を答えたのは、青紫色の髪で、セルディアと同じ仮面を付けた、まだ小さい子供だった。
「あいつどこ行った!」
アルレイドは町内を走って探していたが、アリシールは全く持って見つからない。そして、
「ここ、森じゃねーかっ!」
町外れの森に迷ってしまった。
「アリシール、大丈夫かなー。」
独り言を言いながら、アルレイドは森の中を歩いていた。
「ガサゴソッ」
「誰だ!」
「…気付くの早いですね…私はヨーラです…」
茂みの中から、仮面を付けた、まだ10歳ぐらいの子供が出てきた。
「なんか嫌な感じだな、目的は何だ。」
ヨーラがため息をついた。
「戦うのは嫌いですけど、あなたを連れてこいと言われまして…」
アルレイドは顔をしかめた。
「最も、セルディアさんには始末してと言われたので…」
「セルディア!?私を始末!?聞いてらんねーよ!やっぱりあいつは信用しちゃ…」
アルレイドが話すのを止めた。
「アリシールはどうなった!」
「…気絶させて運びました…」
「目的は何だ!」
「…ごめんなさい…」
急にヨーラが謝った。
「謝ってもどうにもならないだろ!アリシールが今いる場所を教えろ!」
「ごめんなさい…仕方なかったんです…」
ヨーラは震えていた。
「私、やりたくなかったんです…でも…逆らったら…」
アルレイドは、ヨーラに近づいてしゃがみこんだ。
「おま…あなた、セルディアの事は信用してる?」
「…いえ…信用なんて無いです…あの人の部下たちの間では…信じた方が悪いんだって…前に言われて…」
お面をしていても、泣いているのがわかる。
「そう…、その、“あの人”って奴が主犯?」
ヨーラは頷いた。
「じゃあ、そこにアリシールが誘拐されたって事?」
また頷いた。
「なるほど。じゃあ、そこに行けばセルディアもアリシールもいるわけだね。」
「行かないでください!多分…殺されます…」
ヨーラが怯えているのを見て、アルレイドは何か思った。
「私って、おま…あなたたちの敵みたいなもんでしょ?それなのに、私を心配するって、あなた相当お人好しだよ。」
「…違います…」
ヨーラは首を振った。
「お前が私を油断させる計画か?受けて立つぜ。」
「…違います…あなたに助けて欲しいです…」
アルレイドの頭にはてなマークが浮かぶ。
「その…アリシールさんを誘拐したことは決して誰にも許されません…でも…本当は…こんなことするつもりではなかったんです…」
「自分を助けて欲しいって?そんぐらい自分で何とかしろよ。」
アルレイドは冷たく返した。
「お姉さんを助けてください!お願いします!」
ヨーラは叫んだ。
「お願いします!私があなたの力になるので!信用しなくてもいいです!一緒に助けに行きましょう!お願いします!」
ヨーラは深く頭を下げた。
「はあ?」
アルレイドには、状況の整理が全く追い付かなかった。
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