ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。さてあれから数日、『蒼き怪鳥』のボルガ会長から丁重な手紙が届きました。とても丁寧な言葉で綴られていますが、要約すると。
「あの事を黙っていて欲しかったら今すぐに顔を出せ、拒否したら噂をばらまくって意味ですね」
「よし、ギルティ」
「シスター、落ち着いてください。銃をしまってください」
危ない危ない、ボルガ会長が蜂の巣に成るところでした。まだ早いです。
「舐めてんな、ぶっ殺すか」
「ルイ、お座り」
「犬かよ!」
「お猿さんです」
「あっ、おう…」
よし黙らせた。
「で、お嬢。どうするんだ?」
「証拠は揃いました。エレノアさんの帰還はまだですが、そろそろ仕掛けましょうか」
たまには流血の無い解決も良いですね。いや、むしろ『海狼の牙』サリアさんは、私がどうやって利権に食い込むか観察しているはず。蛮行は極力避けたい。
「どうやるんだ?」
「代わりに違法の証拠を突き付けて、利権売却を強要します」
「相手が無視したら?」
「その場合は、『ターラン商会』と『海狼の牙』に情報を売ります。マーサさんやサリアさんなら有効に活用してくれるでしょう」
「いや、シャーリィ。それ全てを失う奴だ」
「ああ、『蒼き怪鳥』が無くなっちまうぞ」
「ええ、正常な思考をしているなら私達に利権を売り渡した方が得をします。もちろん適正価格なので、悪くない取引に成るはず」
「だがよ、それだと『蒼き怪鳥』を見逃すことに成るぜ。あのチンピラ共に指示したのは、ボルガ会長だ」
「ルイ?」
「俺は納得できねぇ。お前に怖い思いをさせた連中だ。生かしておく理由が無い」
「お熱いな、ルイ」
「ベルさんだってそうだろ?」
「まぁな、お嬢に危ない橋を渡らせたんだ。落とし前はつけねぇと」
「ご安心を、私は商談が成立したらその後までは関知しません」
「出来ますか?シャーリィ」
「あくまでも、シャーリィ=アーキハクト伯爵令嬢として商談を成立させます。つまり、『暁』は一切関係ない。名乗った覚えもありませんし」
「エグいなぁ」
「それでこそお嬢だ」
「ですので、商談後『暁』が何をしようが関係ありません。手を出さないのは、伯爵令嬢シャーリィ=アーキハクトだけですからね」
屁理屈ですが、相手は悪徳商人なので問題ありません。書面上は一切問題はないのですから。
「じゃ、直ぐに行くのか?お嬢」
「いいえ、少しだけ待たせます。彼方が焦りを覚えるくらいに。セレスティン」
「ここに」
背後から静かに現れるセレスティン。ハッキリ言ってビックリするからやめて欲しいのですが、執事の嗜みだそうです。よく分かりません。
「成果は?」
「新たに二十名の雇用に成功、訓練も順調でございます」
我が『暁』の戦闘部隊は更に増員されて四十名になりました。装備も整えています。
「相手が逆上しても、返り討ちに出来るだけの用意はありますからね」
「俺、『蒼き怪鳥』の連中に同情するわ」
「お嬢を敵に回すってのは、こういう事に成るんだよ。徹底的にやるからなぁ、うちのお嬢は」
「当たり前です。合法的に利権を手に入れたら、憂いを断つ。それだけです」
それから数日、私は動かずに優雅な日々を送りました。主に農園で新しいサトウキビ栽培の試みと、紙の製作に試行錯誤していただけですが。
え?ルイとイチャイチャ?しませんよ、仕事が終わるまでは。
そうして待っていると、案の定『蒼き怪鳥』から催促の手紙が届きました。早速ルイと一緒に読みます。
「要約すると、早く来ないとまた襲わせるぞ。だそうです」
「随分と強気だな。あの写真って奴を握ってるからか?」
「でしょうね。まして、貴族社会では犯されたなんて噂が流れるだけでも致命的なんです」
「大丈夫なのか?上手く行ってもバラされる可能性はあるぜ?」
「別に構いません、今は貴族に戻るつもりもありませんし」
「俺はムカつくんだけどな」
「気にしないでください、私に手を出せたのはルイだけ。その真実があれば何の問題もない。あのチンピラさんはどうしました?」
「まだ生かしてるよ。毎日ご機嫌伺いに来てるぜ。逃げりゃ良いのに」
「小物でしたから、上手く行けばうちで美味しい思いが出来ると思っているのでしょうね。終わったら好きにしてください」
「地下室に連れていかなくて良いのか?」
……は?今なんと?
「…ルイ、地下室とは?」
「いや、お前の使ってる地下室だよ」
「…何故それを?」
ルイには話していないはず!
「ああ、誰に聞いた訳じゃねぇから安心しろよ。昨日、真夜中に行ったろ。お前が出歩くから心配してついて行ったんだよ」
疲れて眠っていると安心していたのに。
「…むぅ、起きていたとは。何を見ましたか?」
「……何も?あそこで何をしようがシャーリィの勝手だし。俺は気にしねぇよ」
優しいのですね、ルイ。
「私、ルイが思ってるより外道ですよ?」
「今更だろ、マトモな奴はこの町じゃ長生きできねぇ。別に珍しいことでもないしな」
「大物なのか何も考えていないのか…まあ、良かったです。いつルイに話そうか迷っていましたから」
「隠さなきゃいけねぇこと以外は、隠し事無しにしようぜ。俺は無いけど」
「隠し事出来るほど器用では無いでしょう」
「まあな。で、どうする?」
「私は関知しないと言った筈です。ルイと想いを通わせた切っ掛けを作ってくれたとも言えますからね」
「分かった、この分も上乗せしとくわ」
「貴方が傷付かない程度にお願いします」
「ああ、心配すんな」
と言いつつ笑顔で私の頭を撫でてきます。うーむ、何ともくすぐったい。
「なんだ、気持ちいいのか?」
「不快ではありませんね。ですがルイ、女性の髪を気安く触るのは駄目ですよ?」
「問題ない、シャーリィにしかやらないからな。それに、嫌そうな顔は分かるよ」
「分かるんですか?」
「お前、ちょっと顔が緩むことがあるからなぁ」
「ほう」
常に無表情よりは良いか。多少は感情を表に出せるようになったと。うん、成長しました。
「おーい、いつまでイチャイチャしてんだ?」
おっと、ベルも居たんでした。
「悪い、ベルさん」
「良いよ、微笑ましいしな。で、お嬢。どうするんだ?」
「セレスティンを呼んでください。私は部屋で着替えてきます」
もう破かれたくはないので、ワンピースは完全に普段着として使います。
「おう」
「俺はどうすれば良い?シャーリィ」
「例のチンピラさんを捕まえて、写真とやらを完全に破棄させてください。後はご自由に」
「分かった、証拠が残らねぇようにする」
よし、準備は整いました。エレノアさんの帰りを待ちたかったですが、仕方ない。また時期を逃して大切なものを失うよりは良い。
謀略の完成を前に、改めて気を引き締めるシャーリィであった。
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