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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。私はいつもの礼服姿に着替えてセレスティンを伴い『蒼き怪鳥』の本店へと向かうことにしました。
「いよいよですな、お嬢様」
「はい、これまで耐えてくれて感謝します、セレスティン」
「お嬢様のためならば。しかしながら、妙な噂を流される恐れもございます」
「問題ありません。私にはルイが居るので」
「風聞が悪くなることもございます」
「暗黒街では気にもしませんよ。むしろ、それを鵜呑みにして油断してくれるなら今後がやり易くなります」
「はっ、そこまでお考えならば爺めは意見もございません。しかしながら、万が一があればお嬢様の安全を最優先としますぞ」
「頼りにしています、セレスティン」
私達は馬車で隣街に移動して『蒼き怪鳥』本店へ到着しました。直ぐに会長室へ通されます。貴賓室で無いことに悪意を感じますね。そしてボルガ会長が迎えます。椅子に座ったまま。
「これはこれは、シャーリィお嬢様。急なお呼び立てに応じてくださり感謝します」
「いえ、構いません」
おや、私の椅子すら用意しないとは。露骨すぎますね。こいつは小物だ。役に立たない。要らない、ですね。
「さて、先日の商談に参加していただきありがとうございます。先方からも良い知らせが届いております」
「それは何よりです。報酬をいただけますか?金貨二十枚との約束でしたが」
「はて、その様な約束をしたでしょうか。何分歳を取りまして物忘れが酷く」
ふむ、なるほど。よし、潰そう。出方次第ではもう少し穏便にいくつもりでしたが。
「そうですか…残念です」
「時にシャーリィお嬢様、写真なるものをご存知で?絵画よりも精巧なもので、まるで現実を切り取ったようなものです。あの取り引きの最中の写真が存在するのですが」
「それは貴方が持っているのですか?」
「まさか、先方が持っていますよ。私が持っていたら奪われるかもしれません」
好都合ですね、その先方とやらは既にルイが始末していますから。写真の処分の手間が省けました。
「それで、ボルガ会長は私に何をしろと?」
「写真を含め奇妙な風聞が流れては困るでしょう。私は商人だ。口を塞ぎたいなら、金貨の音が聞きたいですな」
嗚呼…ああ…気分が高鳴る。こいつは敵だ。私から何もかもを奪おうとしてる…敵だ。護らないと…潰さないと。
「シャーリィお嬢様、可憐な笑顔ですな。しかし、それだけでは私も口を滑らせてしまいますなぁ」
やっぱり、私は笑顔を浮かべていましたか。良いよ、もう遠慮しないから。こいつ、敵ですし。
「その前に、今回はボルガ会長にプレゼントを持ってきたんです」
「おや、なんですかな?」
私は羊皮紙を差し出します。笑顔のままでね。
「どうぞ、お受け取りください。そして噛み締めて、静かに絶望してください」
羊皮紙を開き内容に目を通したボルガ代表は目を見開いています。
「こっ、これは!!!!どこでこれを!?」
「入手経路については、この際問題ではありませんよ。ちなみにそれはコピーです。原本は別の場所にあります」
「…これは脅迫ですかな?私の口も軽くなりますぞ?写真と原本を交換で如何でしょう?」
そう来ましたか。
「写真については気にしないでください。私にとって有効なカードにはなりませんよ?」
「では、何が望みと!」
「『蒼き怪鳥』が港湾に持つ桟橋の権限と周囲の土地。それと交換で如何ですか?原本をお渡ししましょう」
「ふざけるなっ!あれを手に入れるために、どれだけの金を使ったと思っている!?」
「悪どいやり方で、ですよね?」
「何が悪い!」
「悪くはありませんよ、人様の商売に口を挟むつもりはありませんし。ですが、私相手に他の貴族令嬢と同じような対応をしたのが間違いです」
「ぐっ!」
「断るなら、構いませんよ。それなら原本を『海狼の牙』か『ターラン商会』に売るだけです。どちらも懇意にしていますからね」
おー、顔が真っ青です。
「なっ!なっ!?」
「さて、どうしますか?」
「……分かった、権利書を渡しましょう」
おや、意外とあっさり。いや、それだけ『海狼の牙』や『ターラン商会』が恐ろしいのでしょうね。
「ありがとうございます、原本を持って参りますので書類の用意をお願いします」
そう伝えると、苦虫を噛み潰したような顔で私を睨みながら金庫から権利書を取り出して差し出してきます。
「セレスティン」
「御意」
セレスティンが受け取り、内容を精査します。
「お嬢様、問題はないかと」
「ありがとうございます。取り引き成立ですね」
「原本は!?」
「今手元にあるではありませんか」
「なっ!?」
「コピーと言うのは嘘です。私は悪い子なので、嘘も平気で吐けます」
「こっ、小娘ぇ!」
おー、今度は真っ赤になりましたね。
「私を単なる小娘と見下したこと、それが貴方の敗因です。文句は受け付けますので、また後日。ごきげんよう、ボルガ会長」
私は優雅に一礼して本店を後にします。
「セレスティン、忙しくなりますよ」
「御意。奴らは面子を潰されました。実力行使に出るでしょうな」
「逆転するなら私を殺して権利書を奪い返すしかありませんからね。相手が私を舐めてくれたので簡単に事が進みましたよ」
「過小評価に付け入るとは、お見事でございます」
「これからですよ、セレスティン。備えなければ」
「戻り次第偵察部隊を放ち戦闘に備えます」
「お願いします、セレスティン」
特に追撃されることもなく、私達はシェルドハーフェンの教会に戻りました。
「シャーリィ」
おっ、ルイが出迎えてくれました。
「ルイ、首尾は?」
ルイの手を借りて馬車から降りながら私は報告を促します。
「仕留めたよ。写真もちゃんと処分した。『暁』に引き入れる代わりに全部寄越せと言ったら予備まで出してきたよ」
やはりコピーしていましたか。
「上出来です、ルイ。ありがとう」
「あんな写真残させるわけが無いだろ。シャーリィの裸を知ってるのは俺だけで良い」
このっ!
「白昼堂々と何を言ってるんですか!このお猿!」
「ごめんって!」
頭を叩いて許してあげます。まあ、痛くも痒くもないでしょうけど!私の手が痛い!ふぁっく!
「お帰りなさい、シャーリィ」
「シスター、ただいま戻りました」
「首尾を聞いても?」
「作戦Bです。下衆だったので、強行しました」
「では戦闘になりますね」
「はい、戦闘になります。セレスティンが偵察部隊を放ちますので、シスターも備えてください。この場所を敢えて教えています。出きれば穏便にいきたかったのですが」
「合法的とは言えませんが、血を流さずに権利書を手に入れたのです。それだけでも上出来ですよ」
「ありがとうございます、シスター」
「シャーリィ、俺は何をすれば良い?」
「相手の出方次第ですが、働いて貰いますよ」
「もちろんだ!」
よし、備えていてよかった。後はあちらの出方を伺うだけ。
戦いに備え、シャーリィは『暁』に戦闘態勢を発令しつつその時を待つのだった。