テラーノベル
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キスが終わると顔を見るのが恥ずかしくてそっと俯いた。
「正直、どこまで手出していいかわかんない。これ、どこまで許されるの」
まだ陶酔したような目で私に尋ねる。何とか留まったとばかり大きく一つ息を吐いた。
「付き合ってるんだから、普通に付き合ってる二人がするように過ごしてくれていいよ」
「うん。そっか」
広睦くんは軽く微笑んで、身体を離した。
この前は早急に『お泊りしよう』なんて言ったくせに今度は躊躇って、強引に進めたりしない。どういうつもり?何を考えてるの?聞いてみたいけど、私もこの子と一緒だ。未来のない関係で聞いても仕方がない、そう思ってしまった。
関係を深める必要が無いというより、これ以上深入りしない方がいいという気持ちに似ている。これが私たちのブレーキかもしれない。
「よし、帰ろっか。今日も楽しかったです」
「あ、うん。ありがと、いつも何か、その……会いに来てくれて」
「まぁ、好きでしてることだから」
「たまには、休日に会う? 休みが合えば、だけど」
「ああ。俺、元々土曜の午後と日曜は休み」
「そうなの? じゃあ、会う? 」
「わかった。どこ行きます? 」
いつも会うのは私の会社終わりで、悪いなって思っていたから休日のデートを申し出たけど『わかった』とあっさりした返事だった。
“会いたい! ”とか“やった!”とか喜ぶと思っていて肩透かしを食った。
「忙しかったらいいんだよ。いつも夜に会うばっかりだからさ、って思っただけで」
思った反応じゃなくて広睦くんが会いたいだろうと考えたのが思い込みだったみたいで恥ずかしい。
「いーや、いいよ。全然。どこ行きましょうか? 映画、水族館、買い物、遊園地、それともMt. Fuji? 」
「んふふ、ガチ登山は難しいかな」
ちょっとばかり気を使われた気がする。広睦くんは笑った私を見て目を細めた。……時々ものすごく大人びた表情をする時がある。
「広睦くんさ、時々ドキッとするくらい大人っぽい表情をするね」
「え、そうですか」
広睦くんは自覚が無かったのか恥ずかしそうにして、少し考えた後私に向き直る。
「じゃあ、自認30くらいってことでどうでしょう? 」
「いやいや、無理があるでしょう」
「んだよ。最初俺の事同年代だって思ってたくせに」
「それは、今なら何で気づかなかったのって思うけど! 君が! こっち敬語で喋ってるのにため口きくからでしょ。単に無法者なだけだったって」
「はは、無法者って。すみませんねぇ、常識無くて」
「いいんですよ、まだ学生ですからね。これから社会に出て勉強してもらって」
子供扱いされたのが気に入らないらしく、じと目で見て来るのがおかしくてくすくす笑った。
「映画。で、ウロウロしましょ。夏服でも見ようかな」
「いいね。楽しみ」
付き合う前は色々心配したけどそう話が合わないわけでも楽しめないわけでもなくて、自分でも驚く。
「一緒にいて案外年の差感じないっしょ。ね」
考えてたことを見透かされて苦笑いする。
「……まぁ、色々話してたらちょっとわかんない、みたいなことも出て来るんだろうけど」
「ふん。昔見たアニメの話とか、高校時代時よく聞いた音楽、みたいな話で盛り上がるのは同窓会でやってもらって。俺とは俺としか出来ない話をしたらいいんじゃないですか」
生意気言っちゃって。そうは思うけど、言っていることはもっともだ。わざわざこの子がわからない話をする必要は無いし、この子だって友達とする話を私にしてこないのだから。
「じゃあね」
いつも通り同じ電車。今日は反対方向に乗って別れた。
――楽しかった。
楽しくてもう少し一緒にいたかったし、次のデートは楽しみだ。でも、どんなに楽しくてもいつも少し物悲しい。そんな感情が最後にやってくる。
恋人がいる時の幸せとか、安心とか、あの満たされた感じを純粋に味わいたかったな。
彼氏が出来てすぐの浮ついた気分が味わえないのは残念だった。仕方ないか、もう恋愛に揺れる年でも無くて、落ち着いた結婚相手を探すんだから。
――――――
「東谷ぁ、手空いてる? 」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
仕事中、一息ついていたらマネージャーが声をかけてきた。
「あとで全員呼ばれると思うけど、うちの看板商品、リニューアルすることに決まった」
「わぁ、ずっと言ってたやつですね。ついに……!」
「そうそう。そのリニューアルのプロジェクト、東谷も呼ばれるから。チームメンバーは来月から早速動いてもらうから、そのつもりで今月は今の仕事にめどつけといて」
「はい、頑張ります! 」
既存の看板商品をリニューアルするのは新商品をつくるのより難しい。なぜなら数字を取れているのいに、売り上げが下がる可能性があるからだ。今までの顧客が離れるリスクがある。社内からも反対する声がありなかなかリニューアルに踏み切れなかったのだ。
部から時代のニーズを汲んで新規顧客獲得の可能性を期待する声が高まり、推し進めることにした。そのチームに呼ばれるのはすごく嬉しい。つい口元が緩んでしまう。
仕事でも責任が重くなってきて不安もあるが、やりがいもある。看板商品か……。ロングセラーの機能性のついたお菓子はシリーズ化していて業界シェア上位を占める製品だ。
刷新……かぁ。色々と変化の時が来てるんだな。勇気がいることだけど、変わるものと変わらないものと。
「いいなぁ、東谷さん。ちょこっとチャージシリーズのチームメンバーなんてめっちゃ花形じゃないですか。会社の精鋭たちって感じする。私も頑張ろう」
「ありがと、私もドキドキしてる。武者震いかも」
隣の後輩沢田さんにそう言われ、心境を口にした。嬉しい出来事だった。
コメント
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キスの余韻もつかの間、二人が“未来のない関係”だと自覚しながら次のデートを約束するところに切なさが滲みましたね。広睦くんの「俺とは俺としか出来ない話をしたらいい」って台詞、年下なのに妙に落ち着いててグッときました。楽しいのに最後に物悲しさが来る、その温度感がすごくリアルで…胸がぎゅっとなりました。
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瑠璃🍫✨💭ྀི
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