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あれから何度かレッスンを重ね、更に勇 斗との個人レッスンの日がきた。
格段に上手くなった勇 斗の滑らかな動きに、練習を重ねてきたのだなということが分かる。教える側としても、練習の成果を見せてもらえるのは嬉しい。
「すごく上手くなったね」
「前よりはね、上手くなっておかないと。仁 人と先生、二人がかりで教えてもらってるんだし」
仁 人の知り合いであるインストラクターも、きっと手応えを感じているだろう。
一通りの動きの確認を終え、残り時間がある余裕さで今日のレッスンを終えた。
仁 人は今日の内容を追うように、一人で鏡に立ち、軽く通しで踊る。勇 斗はその姿をじっと眺めていた。
「さすが、やっぱ全然違うわ」
「ふふ、ありがと」
勇 斗の素直な褒め言葉に、仁 人は照れ臭そうに笑う。
「それに仁ちゃん、今日の服装、白くてひらひらで儚いね」
「はあ?」
「もう会えない、あの夏に出会った永遠の幻みたい」
うっとりと、仁 人を通してどこか遠くを見つめるように呟く勇 斗に、急にどうした?と仁 人は驚く。確かに今日の服装はゆったりとした白のロングシャツとホワイトベージュのワイドパンツで、踊ると身体に沿って翻るのでお気に入りの一着ではあった。
しかし、突然始まった語りに困惑を隠せない仁 人は勇 斗に問いかける。
「あの夏っていつ? 永遠の幻って最初からずっと幻ってことでいいの? 幻と出会い認識してるの?」
「うん、多分そう」
「雰囲気で言うな。言ってること滅茶苦茶だよ」
仁 人の冷静な指摘に勇 斗がパチンと瞬きした。
「……うわ、全然儚くなかった」
「当たり前」
「生きてるって感じでいいねっ」
「誤魔化すな」
無理やり修正かけてこようとしてくる勇 斗にツッコむと、勇 斗は「ぶはっ」と楽しげに笑い転げている。ひとしきり笑ったあと、勇 斗は仁 人に向かって両手を広げた。
「仁人ぉ、幻じゃないって証明して」
「いや、分かるでしょ」
「んー、ワンチャン俺の見た儚い幻の可能性ある」
「ないよ」
「俺からは触れないからさ、仁ちゃんが来てくれないと」
ねっ。ほらっ。
柔 太朗から許可得てないから。と勇 斗は口角を上げながらハグを要求する。
勇 斗の胸に飛び込んだあの日以来、勇 斗はこうして仁 人からの抱擁をせがむようになった。
自分からの接触は禁止されているが、仁 人から触れてくるのはOKならば、仁 人が来てよ。ということらしい。
制限を逆手に取られているようで、なんだか納得いかない。実際、勇 斗はカモンと両手をくいと動かしながらニヤケていて、その顔も腹立たしかった。
仁 人がじっと踏み止まっていると、「このままじゃレッスン終われないよ」と急かされる。
片付けをしている柔 太朗に視線をやるが、柔 太朗は目を合わせたまま、片付けている手を休めることはない。自分で考えろってことね。仁 人は息をついた。
ほんの数歩進むだけで勇 斗に辿り着く。腕を回して勇 斗の肩口に寄りかかるように頬を押し当てると、勇 斗の両腕が仁 人を包み込んだ。「来てくれた〜」と嬉しそうな声と共にぎゅっと軽く抱き寄せられ、額に勇 斗の吐息がかかる。
「はぁ、幻じゃなかった。これで安心して明日も会えるね」
「勝手に幻にしようとしたのは勇 斗でしょ。明日は会えないよ」
「そうだったっけ」
「レッスンの予定ないし、明日会う約束なんてしてない」
「え〜、残念」
ゆさゆさと左右に揺さぶられ、仁 人の頭が首振り人形のように揺れた。目眩がしそうだ。
「あ、そうだ」
勇 斗の声音が変わる。少し身体が離れ、顔を覗き込まれた。
「ダンスパートの入った回、明日放送予定だった。仁 人観てくれる?」
「明日なんだ」
「そう、出来ればリアタイで観てほしいけど、難しかったら配信もあるから」
「……明日は大丈夫。勇 斗のドラマ、俺観てるよ」
「え、マジ? めっちゃ嬉しいんだけど! 言ってよ!」
「言うタイミングなかった」
ダンスパートだけでも観てほしいと勇 斗は言うが、話の流れも気になった仁 人は1話から観続けていたのだ。
社会人として働く青年の葛藤や成長が等身大に描かれたドラマで、ダンスパートも過去にダンスの経験があるという回想シーンで使われるものだと聞いている。
「じんとぉっ」
懐いた大型犬のように体重を預け更に力を込めてきた勇 斗に「いたっ、力つよっ」と仁 人が悲鳴をあげると、柔 太朗がすっ飛んできて引き離された。
「これ以上はダメ」
「ごめん。あまりの可愛さにちょっと加減ができなかった」
「……大丈夫」
両腕で自身をさすると、勇 斗がしゅんと項垂れている。仁 人は苦笑いを浮かべながら、「明日、必ず観るから」と約束した。
◇
翌日夜。21時。
仕事を終えた仁 人は柔 太朗ともにリビングのソファに座り、勇 斗から貰った桃のクッションを抱えてTV前で待機していた。画面に映し出されるドラマのオープニングを眺めながら、どこか落ち着かない気持ちでクッションの端をぎゅっと握る。
「始まる……」
物語が進行し、いよいよ作中でダンスパートのシーンが差し込まれる。
過去の話の流れに移り、スタジオでダンスの練習をしている勇斗が映し出された。
しなやかで、それでいて力強いジャズダンスだった。
個人レッスンで何度も目の当たりにしてきた振付け。ダンススタジオ内で見せるそれとはまた違う、画面の中の彼は一段と鮮烈で、息を呑むほどに美しかった。勇 斗の挑むような真っ直ぐな視線が映り、次に視線を落として腕で円を描く。何度も一緒に繰り返した動作。
昨日、ふざけてダル絡みをしてきた彼とは全く違う表情。
プロの表現者としての姿に、仁人は画面越しだと分かっていても完全に目を奪われてしまっていた。
見入ったまま話は進み、ドラマのエンドロールが流れていく。その中に自分の名前を見つけて、仁 人は思わず横にいる柔 太朗の服を掴んで指さした。
「クレジット、俺の名前載ってる……」
「うん、書いてあるね。凄いね」
「なんか、嬉しいかも」
勇 斗に名前出しても良いか聞かれた時は特に何も考えずに了承したが、こうして目の当たりにすると、ほんの少しでも作品と勇 斗の助けになれた事が誇らしくなってくる。
「よっしーが頑張った証拠じゃん」
「そこまで関わってないけど、でも、有難いね」
嬉しさを滲ませながら呟くと、スマホから通知音が届いた。
誰だろうと手に取ると、連続で通知が鳴り続けて手の中で震える。
「え、えっ?」
次々とメッセージのバナーがポップアップしてきた。
『仁 人ドラマ観たで!』
『仁ちゃん名前載ってたやん凄い!』
『久しぶりドラマ観たよ』
『ドラマのあれ仁 人の名前だよね?』
太 智や舜 太の他に、知人からのメッセージが続々と届いてきた。
なにこれ、すご……。
仁 人が呆然としていると、横にいた柔 太朗が覗き込むようにして、届いたトーク画面のメッセージを次々と声に出して読んでいく。
『ダンス担当したの?』
『めっちゃカッコイイじゃん』
だってさ。
笑いかける柔 太朗に仁 人は目を見開いて顔を見合わせる。
返信しようにもまだ流れてくる通知を眺めていると、勇 斗からの着信が画面に映った。
そのまま通話ボタンを押すと、「もしもし」と外のざわめきが混じる中、勇 斗の声が聞こえてくる。
「もしもし、仁 人?」
「うん、勇 斗。ドラマ観たよ」
「どうだった? 俺まだ仕事中で観れてないんだよ」
「良かったよ。練習以上に上手く踊れてたし指先も綺麗だった」
「マジ? 仁 人に褒めてもらえると嬉しいわ」
ははっ、と笑い声が聞こえて、仁 人も小さく笑った。
仕事中なのに気になって電話をかけてきたのが可愛いなと思う。
「ほんとに、お世辞じゃなくカッコ良かったよ」
仁人が素直に感想を伝えると、勇 斗がふっと息を呑む気配がした。
「っ、……仁 人、あのさ、俺もうちょっとしたら仕事終わりそうなんだけど、この後って少し時間ある?」
「時間?」
「そう、時間遅いし無理なら断ってくれていい。でも、もしちょっとだけでも時間もらえるなら、……会いたい」
勇 斗の声が鼓膜を震わせる。
ドラマの放送が終わったばかりの今、時刻は22時。まだ勇 斗の仕事が終わっていないとなると、待ち合わせは日付を超えてしまう可能性もある。
じっと様子を伺っている柔 太朗を見つめ返しながら、仁 人は答えた。
「俺も、会いたい」
🍎
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アイ
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コメント
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アイさん初めまして! もうこの話10回は見ました!まじで大好きです 続き待ってます♪
アイ様、先日コメントさせていただいた者です!新作ありがとうございます…!!キュンキュンしっぱなしで、この作品が今の私の生きる糧です(重い)