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「「はぁ~~……」」
間一髪ゲートへ飛び込んだ私達は、深い溜め息を漏らした。危なかった。まさか罠が仕込まれていて、現れたのが中規模艦隊だったんだから。
センチネルスターシップの戦艦クラスが10隻以上。大きさは確かキロ単位の馬鹿みたいな大きさがある。重武装なのはもちろん、問題は搭載しているスターファイターの数だよ。確か100機以上は積み込んでいるはずだから、その物量の恐ろしさと言ったら……しかも全部無人だから質が悪い。
交渉なんて無理だよ。相手は全部無人のドローン。仕込まれた命令はただ一つ、知的生命体を殲滅せよ。それだけなんだから。
「あー、死ぬかと思った」
『ヒヤヒヤしましたよ、ティナ。無理はしないでほしいとお願いした筈ですが』
「あはは、ごめんね?アリア」
アリアにお小言を貰う。AIでもヒヤヒヤするんだね。
「でも、良かったです。あのステーションで何が起きたのか、どんな人達がどんな想いで生きてきたのか。その証を持ち帰ることが出来ましたから」
「そだね。出来れば生きていて欲しかったけど……そう何度も奇跡は起きないか」
前回フェルを助け出せたのも奇跡だからね。何度も起きると考えるのは楽観かな。
『ですが、また同じような場面に遭遇したらティナは動くのでしょう?』
「分かってるじゃん、アリア」
そう、何度現実に打ちのめされてもそれだけは変わらない。助けられる人がそこに居る限り、私は助けに向かうだろう。どんなに困難でも、見捨てるよりずっと良いはずだから。
「無理もほどほどにしてくださいね?私も一緒に居てヒヤヒヤしましたら」
「ごめんね、フェル」
今回はフェルも一緒だったから、もう少し慎重に立ち回ったほうが良かったと思う。うん、我ながら短慮だ。ヘコむ。
『ティナ、目的地到着後も現地時間では余裕があります。どうされますか?』
アリアが話を切り換えてくれた。うん、私も気持ちを切り換えないと。
「約束した日まで太陽系でのんびり過ごすつもりだよ。今回みたいなことがまた起きたら困るし、寄り道はしない」
「地球以外に居住可能な惑星があるんですか?」
「確か火星には水があったような」
正確には、惑星表面に海や川の痕跡がたくさん残されている。極地に氷があるんだっけ?うろ覚えなんだよねぇ。
『データ検索……居住に適した惑星とは言えません。快適に過ごすためには、本格的なテラフォーミングを推奨します』
「今の地球の技術じゃ無理だろうなぁ」
月の有人探査が精一杯だったはず。まあ技術は日進月歩だし、地球人も何時かは火星に辿り着けると信じてるけどね。
私達はブリッジから居住区に場所を移した。いや、疲れた。
私はふかふかのソファーで、だらーんとしてる。フェルが飲み物片手に隣に座りながら聞いてきた。あっ、私のもある。
「地球へのお土産ですけど、用意したものを持っていくんですか?」
「ありがと、フェル。お土産は持っていくつもりだよ」
ドリンクを受け取りながらフェルの質問に答えた。
取り敢えず“トランク”10個と、“医療シート”を100枚用意してみた。
医療シートは一回限りだし、効果も分かりやすいからね。富裕層とか権力者が独占しないよう取り扱いには気を付けないといけない。
国連があるみたいだし、管理を任せるのも良いかな。
少なくとも一国が独占するよりは良い……はず。
『国際連合にも問題点がありますが』
「そこは地球の人達を信じよう」
と言うより、私にはそれくらいしか出来ない。交流が活発になれば政府だって重い腰を上げるかもしれない。
私は地球との交流のきっかけを作れれば良い。政治や外交なんて難しいお話は、専門家さんに丸投げだ。
『ティナの判断を支持します』
「ありがとう、アリア」
ゲートを抜けるまでの7日間、私達はプラネット号の居住区でのんびりと過ごした。
……よし、地球に行ったらトランプを貰おう。たくさんのルールと遊びがあるちょっとした暇潰しに最適な娯楽用品だし、アード人も気に入るはず。賭け事は……控えめに。
数日後。
『太陽系近海に到着しました。これより星間航行速度に切り替えます』
極彩色の空間から飛び出して星の海が視界いっぱいに広がる。いつもこの瞬間は感動するなぁ。
「ティナ、真っ直ぐ地球へ向かいますか?」
「いや、先ずは前回と同じ場所に行くよ。アリア、太陽系の木星近海までお願い。そこからメッセージを送るからさ」
『畏まりました。これより太陽系内部に侵入、木星近海を目指します』
数時間後、無事に木星近海まで辿り着けた。いやはや、いつ見ても圧巻される大きさだよ。太陽を除けば太陽系最大の惑星なだけある。
「大きな星ですねぇ」
「木星はガス惑星だから、居住には適していないけど、この大きさは圧巻だよねぇ。太陽になり損ねた星なんて言われることがあるし」
まあ、如何に木星が大きくても太陽に比べたら小さな星でしか無いんだけどね。
そう言えば。
「初訪問するにしても、フェルはどうしようかな?」
「私ですか?」
「うん、いきなり二種族の異星人が来たら地球の人が混乱するんじゃないかなぁって心配でさ」
「確かに、ティナだけでもビックリしていますよね」
嘘だ。私個人としては地球の人達を信じたいけど異星人の来訪と言う未知の体験に、彼らがどんなアクションを起こすか分からない。
フェルを連れていくにしても、次の機会にするつもり。
「だから、フェルには留守を守ってほしい。プラネット号は大気圏内航行能力が無いからね」
「分かりました。ティナはどうやって地球へ?」
「“ギャラクシー号”を使うつもりだよ。先ずはメッセージを送ってからだけど。アリア、メッセージの用意を」
『内容はどの様に?』
「木星近海まで来たと知らせて、予定日に地球軌道まで移動するって伝えてほしい。宛先は……ジョンさんで良いかな」
『畏まりました、メッセージを送信します』
いよいよ地球訪問へと向かう。そしてメッセージはまたしても名指しである。
ティナの無自覚な親切さによってジョン=ケラーの胃痛は増すことになる。