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第3話「接近」
久我:それから数日、陽翔はまたしても慧を気にせずにはいられなかった。
周囲のことには興味を持たない、どこか浮いている慧。それに引き寄せられるように、陽翔は少しずつ慧に近づいていった。
だが、慧はいつも冷徹な表情のままで、陽翔に対してあまり感情を見せることはなかった。
――それでも、陽翔は諦めきれなかった。
昼休み、陽翔は意を決して再び慧の元に向かった。今回は、少し違うアプローチをしてみるつもりだった。
久我「おい、今度一緒に帰らないか?」
慧がページをめくる手を止めて、無表情で陽翔を見た。
氷室:「……何で?」
久我:「いや、なんとなく」
答えが曖昧であることを気にせず、陽翔は続けた。
久我:「お前、毎日一人で帰ってるだろ? なんか寂しくねぇのか?」
慧はしばらく黙っていた。だが、陽翔の視線を受けて、やっと口を開く。
氷室:「……寂しくない」
その短い返事に、陽翔は少し驚いた。
久我:「そうか。じゃあ、なんであんな冷たい目してんだよ」
氷室:「お前には関係ない」
その言葉に陽翔は一瞬、立ちすくんだ。だが、すぐに顔をしかめて、意地を張った。
久我:「だったら、なんでこんなに気になるんだよ」
慧は目を細め、その顔をじっと見つめた。
氷室:「気になる? 何が?」
その問いに、陽翔は言葉を失った。無意識に胸の内で湧き上がる感情を言葉にするのは、なんだか恥ずかしかった。
――ただ、気になる。
陽翔がそう感じている理由は、未だにうまく言葉にできない。けれど、慧のことが気になることに間違いはなかった。
久我:「何でもねぇよ。勝手にしろ」
陽翔はそう言って、席を立つつもりで立ち上がった。だが、背後から冷静な声が響いた。
氷室:「……お前、俺に興味があるのか」
その声に、陽翔は一瞬足を止めた。
久我:「興味? あるかもしれねぇな」
陽翔は振り返らず、軽く肩をすくめる。
でも、心の中では確かに、答えは決まっていた。
――慧に、少しでも近づきたい。
その気持ちに、言葉をのせることはできない。けれど、それでも、陽翔は少しだけ、慧に踏み込んでみたくなった。
――と、その時だった。
氷室:「……じゃあ、俺もお前に興味がある」
突然、慧が言った。
その一言が、陽翔の心を強く打った。
久我:「……え?」
慧がほんの少し、目を細めて微笑んだ。
氷室:「面倒なことになるかもしれないな。お前には、関わりたくなかったけど」
その言葉には、確かに陽翔に対する「興味」というニュアンスが含まれていた。
久我:「……お前も、やっと本音を言ったな」
陽翔は照れ隠しに肩をすくめて言った。だが、胸の中では何かが確かに変わった気がした。
――慧の言葉。
それが、陽翔にとっては少しの期待とともに、次第に強く心に刻まれていった。
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