翌日、私は遥香に袖のリメイク縫製をしたワンピースを渡した。
何も言わずにその場で着替えた遥香は
「新品のようでいいわね。真奈美、このまま写真撮って」
と言う。
そして、クローゼットからレフ板を出すと、手慣れた様子でテーブルに置き、ライトも設置。
なるほど……
「普段はどうやっておられるのですか?」
無線のセルフィ―リモコンだろうと簡単に予想は出来たけれど、こういう作業に疎いことを装って、私は遥香に聞いてみた。
「スマホから離れてもカメラシャッターは切れるの。お金のない真奈美は、スマホを持つだけで精一杯でしょうけど、いろんな便利なものがあるのよ」
スマホで撮影して、スマホで編集して投稿している遥香よりは、タブレットもパソコンも使いこなして編集できる自信はあるけど
「そうですか」
と、もちろん答えておく。
そして5ポーズほど撮ったところで
「遥香様、ご確認ください」
もういいだろうと、私は撮影を止めて遥香にスマホを返した。
少しムッとした様子も見えたけど
「まあまあ撮れているわね……」
私の撮った写真を確認した遥香は満足したようだ。
ハーフアップにした髪に、柔らかい素材のワンピース。
その袖はふんわりと品よく膨らみ、彼女の濁った魂がなければとても似合っていると思う。
私は、リメイク縫製の技術ひとつだけでも遥香に認めさせることが出来たような気分で、二階の家事室の整頓をするため、廊下の左側を歩いた。
「あ、失礼しました、篤久様」
ちょうど篤久様のお部屋の前を通る時にドアが開いて、篤久様が立ち止まってくださるという様子に、私は一歩下がって頭を下げた。
「いや、ちょうどいい」
「何か御用でしたか?」
篤久様はドアを開けたまま部屋に戻ると
「これ。休憩にどうぞ」
と何かを私に差し出す。
「休憩?……私にですか?」
「そう。これなら、そのポケットに入るだろう?」
篤久様は私のエプロンを見て
「邪魔にならないように、ラッピングしてないから」
手を出さない私のエプロンのポケットに、その小さな缶を入れた。
「ぁ……りがとうございます……」
僅かに重みを感じるエプロンが、真っ白い無機質なものから柔らかい温度を持ったように感じて、それを確かめるように私はポケットを手で押さえた。
「夕飯、遅めだけれど……20時過ぎますが、父も俺も帰ってからいただくのでよろしく」
「かしこまりました。いってらっしゃいませ」
何事もなかったように、ご出勤をされる篤久様を見送りながら、私はもう一度ポケットに触れる。
それから急いで家事室に入ると、バタンッ……とドアを閉めてから、ポケットから缶を取り出した。
「きれい……」
私の手のひらからはみ出ることなく、ちょうど乗るサイズの薄い缶は、淡いパステルカラーで様々な花が描かれている。
そっと蓋を開けてみると
「…わぁ…可愛い」
缶に描かれた花の色が丸くなったような小粒のキャンディーが入っていた。
「うれしい…」
もらっていいのかな?と、思わなくもない。
でも、ここへ来てから初めて心が丸くなったような……そんな気がして、しばらくの間、私は丸いキャンディーを眺めていた。
コメント
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翌日のあれは静かに真奈美ちゃんのリメイクをお気に召して😳それを着て、写真撮らせて、相変わらずのお口だけど…アロンアルファでくっ付けてやりたい😆 篤久様の元へは調査書がすでに届いている?読んで更に調査依頼したかしら? 真奈美ちゃんの髪の毛もそうだけど、かなり気に入ってるのでは?と思ってるんだけど、今1人で戦ってる真奈美ちゃんにとって嬉しいプレゼントだね。サイズなどの心遣いがニクイ。でも…味方なのか、ただあれらを追い出すために便乗して利用しようとしているのか、まだわからないな。
篤久さんは真奈美ちゃんが気になってるよね?
篤久さんは真奈美ちゃんの味方になってほしいな😍