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7 - Bitter(大森×藤澤:甘)【ホワイトデー】

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2025年03月14日

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※このお話は「Sugar」(バレンタインのお話)の続きになっています。




ホワイトデーって「お返しする側」としては地味に大変。仕事の関係もあっていろんな人からバレンタインにいただくから、誰からもらったかきちんと覚えておかないといけないし、何を返そうかというのもセンスが問われるので結構悩む。結局いつもセンスの良い元貴に相談していくつか候補をあげてもらい、その中から選んでいる。今年は最近流行りで女性ウケもいいというレトロなデザインのクッキー缶をお返しとして配ることにした。元貴曰く、こういうのは「みんないっしょ」がいいのだという


「でも、ちょっとしたお菓子をくれる人もいれば、高級ショコラをくれる人もいるわけじゃない。なんか不公平な感じしないかなぁ」


僕が首を傾げると、元貴は呆れたようにため息を吐く。


「涼ちゃん、今年仕事で一緒になったタレントさんから有名店のショコラボックスもらったって嬉しそうに話してたよね」


「うん、僕が甘いもの好きって収録の時に盛り上がってそれでおすすめのをくれたんだって。あれおいしかったねぇ~」


「あの収録、俺も若井も一緒だったし、その話した時も一緒だったでしょ。でもバレンタインの時送られてきたのは涼ちゃんだけだった。この意味わかる?」


そうだったのか。それは知らなかった。でもグループあてにじゃなくてわざわざ僕個人の名義あてに送ってきてたし、甘いものが好きなの僕だけだと思ったのかな。


「あの時甘いものの話したの僕だけだからかな~とか思ってるでしょ。違うよこのポンコツ」


僕の心の中を見透かしたように先回りして言葉を続ける元貴。


「あれはね、涼ちゃんのことちょっといいな、って思ってるから他と差をつけてんの。そこに涼ちゃんが他の人よりいいものもらったからってお返しも特別なものにしてみ?向こうもこちらを気にかけてくれてるのかもって勘違いさせちゃうでしょ」


僕は元貴や若井と違ってモテるほうではないから元貴のそのタレントさんに対する推測には物申したいこともあるが、彼の言い分もわかる。なるほどね、と頷くと彼は満足そうに笑った。


という会話をしたのが1週間ほど前。だというのに、僕は元貴の部屋に用意されたお返し用のお菓子の中に、一つだけ大切そうによけられた、明らかに他とは違うラッピングのそれを見つけてしまった。部屋に充電器を借りに来ただけなのに、目についたそれに思わず固まってしまう。勝手に見るのはよくない、と分かっていながらも、そっとその紙袋に触れる。中には紙袋のお店のものの何かお菓子らしきものと、薄水色の小さな箱。僕の記憶が正しければ、女性用アクセサリーのお店のものだ。誰へのものだろう。妙に心臓の音が大きく聞こえる。


「涼ちゃん?充電器いつものとこにない?」


リビングから元貴の声が聞こえて、はっと我に返り、慌てて充電器をひっつかみリビングへ戻る。見てはいけないもの見てしまった時のように、心拍数が変に上がって背中に汗も滲み、なんだか気分が悪かった。


僕は今年のバレンタインに元貴から「手作りのお菓子」というリクエストをされ、かなり苦心したために、元貴にも同様にお返しにはお手製のものがいいとお願いしていた。器用な彼は僕と違って難なくこなしてしまいそうだが、そもそも彼の手作りお菓子なんて食べたことがないので非常に楽しみで、その浮かれ具合と言ったら昨日もスタッフさんに


「涼ちゃんここ数日いつも以上にご機嫌ね~楽しみなことでもあるの?」


なんて揶揄われるくらい。元貴にも、明日のホワイトデーのために買ってきたという製菓材料が入っているからと今日は彼の家の冷蔵庫を開けるのを禁止されている。……つまり、あの紙袋は僕に向けてへのものではない。でも、それならいったい誰に?


ホワイトデー当日、僕は上の空で過ごした。あれほど楽しみにしていたはずのホワイトデー。それなのに、お返しを人に渡すときに笑顔を忘れないようになんとか口角を引き上げるので精いっぱいで、元貴はあれをだれに渡すんだろう、もう渡したのかな、なんてそんな考えでいっぱいだった。その日は仕事終わりにそのまま元貴の家に寄る。彼は一足先に仕事を終え帰宅していた。


「涼ちゃんいらっしゃい~」


ちょっといたずらっぽい笑みを浮かべながら元貴が僕を出迎えてくれる。


「涼ちゃんお待ちかねのやつ、ちゃんと用意してるよ」


僕に早く見せたくて仕方ないのだろう。部屋に上がるなり手を引いてリビングへと連れていかれる。


「じゃーん、トリュフにしてみました~」


差し出されたギフトボックスを開いてみると、そこには形の良いトリュフチョコレートが4つ並べられている。


「え、すごい!これ手作りなの?」


「涼ちゃんが手作りがいいて言ったんじゃん。まぁこれくらいはね」


思わぬクオリティの高さに感嘆する。本当に彼はなんだって器用にこなしてしまうのだ。あらためて彼のすごさを実感するとともに、なぜ僕なんかが彼と付き合えているのだろう、というネガティブな考えが頭をもたげる。

早く食べてみてよ、と元貴に急かされ、綺麗に並んだそれを一つ手に取る。口に入れるも、いろいろな考えに心が押しつぶされそうになっているからか、味がよく分からない。なんだか苦みだけがやけに強調されるような気がしてしまう。それでも彼に悟られるわけにはいかない、と思い今日一日そうしてきたようになんとか笑顔を作る。


「ん!すごい、おいしい~」


しかし途端に怪訝そうな顔をする元貴。


「涼ちゃん?本当においしい?」


無理に笑顔を作っているのが彼には分かってしまうのだろうか。僕は慌てて


「当たり前じゃない!本当においしいよ、元貴が作ってくれたんだもの」


しかし元貴は不機嫌そうに顔を歪める。


「ねぇ、無理とかしなくていいんだよ、本当のこと言えってば」


やばい、どうしよう。僕がうまく反応できなかったせいで元貴を怒らせてしまった。なんとかとりなそうと勢いよく首を振る。


「ちが、っ違うんだよ、本当に元貴が作ってくれたのが嬉しくて、でも元貴にはやっぱ僕じゃダメなのかなぁって思ったら苦しくて……」


ぽろぽろと涙がこぼれる。苦しい。苦い。急に泣き始めた僕に元貴はぎょっとして、慌てて背中を撫でてくれる。


「ごめんっ、泣かせたかったわけじゃ……いたずらが過ぎた、ほんっとうにごめん!」


「……え?」


憔悴しきった様子の元貴に、僕は訳が分からず首を傾げる。


「ごめん、わざと高カカオのチョコで苦いトリュフ作ったの……涼ちゃんにドッキリしかけてやろうと思って」


「え?これほんとに苦いの?」


「は?」


元貴はぽかんとして僕を見る。


「苦くて泣いたんじゃないの?」


僕は慌てて首を振る。


「違うよ!ていうかごめん、考え事してたせいで味がよく分かんなくて……苦いのも自分の気持ちのせいだと思っちゃった」


なんだそれ、と呆れたように元貴は僕を見た。


「何をそんな心配してるわけ?」


僕は本当のことを言うべきか迷ったが、まっすぐな彼の視線に誤魔化しはきかないような気がしておずおずと口を開く。


「その、昨日元貴の部屋に入った時、ホワイトデーのお返しが並んでるの見ちゃって……」


それが?というように不思議そうに首を傾げる元貴。


「ひとつだけ、その、違う袋あるの見えちゃって。女の子にだよね、あのアクセの……ごめんなさい勝手に袋の中のぞいたりして!でも、元貴は前に『お返しは特別感を出さないためにもみんな一緒のがいい』っていってたのに別で用意する相手がいるんだって、思っちゃって……」


彼の反応を見るのが怖くて、俯いたままでなんとか言葉を紡ぐ。元貴が大きくため息をついて、僕は思わず肩を震わせた。


「涼ちゃんの謙虚さは美徳だけど、その自信のなさはどうしたら直るかなぁ」


元貴はリビングのソファのほうへと歩いていき、その陰からあの袋を取り出した。


「俺の『特別』なんて、涼ちゃん以外誰に渡すっていうんだよ」


ん、といってぶっきらぼうに彼はその袋を僕に差し出す。


「え、これ、僕に……?」


「それ以外誰に渡すっていうんだよ!本当にもう!」


おずおずとそれを受け取る。お菓子のほうの箱を開けるよう目で示されて、整然としたラッピングをなんとか開くと、そこには色とりどりのマカロンが並んでいる。


「涼ちゃんはポンコツだから知らないと思うけど、ホワイトデーのお返しは贈るものによって意味があるの。マカロンは『特別な人』。どうしても涼ちゃんに渡したかったんだけど、さすがにマカロンは作れなくて……だから手作りのほうはわざとふざけたものにしてドッキリみたくしてこっちが本当だよって渡そうと思ってたの!あぁもう全部言わせんな!」


照れくささを隠そうとしているらしく、わざとぞんざいな口調にしているがその耳は真っ赤に染まっている。


「元貴にもできないことあるんだ……」


思わずぽつりとつぶやくと、じとりと彼はこちらを睨む。


「あるよ、人を何だと思ってるの。あるに決まってるじゃん。涼ちゃんの前だからかっこつけて何でもできる風にみせてるだけだよ」


「そう、なんだ……」


なんかちょっと安心したぁ、と笑うと、元貴は馬鹿にしてんじゃん!と拗ねたようにそっぽを向く。違うよ、と慌ててとりなすと


「そっちの箱も早く開けてったら」


と薄水色の箱を指さす。こちらも丁寧に包装されており、ちょっとてこずりながら開封する。白いケースを開けると、そこには小さな赤と黄色のストーンがあしらわれたブレスレット。僕と元貴のメンバーカラーだ、とすぐにわかる。デザインもシンプルなものなので、普段の格好にも合わせやすそうだ。


「かわいい……ちゃんとふたりのメンバーカラーだ」


「それなら別に普段使いもしやすいでしょ」


あいがとう、と思わず僕は元貴に抱き着く。元貴は僕をなだめるようにはいはい、と背中を軽くたたいた。

元貴にブレスレットをつけてもらいながらふと思いついたことを口にする。


「それにしてもホワイトデーの贈り物に意味があるなんて知らなかった。元貴がいつもお返し用に考えてくれるラインナップがクッキーなのも意味があるの?」


「クッキーは『友人』。だからあたりさわりないかなって」


「ふぅん、すごいなぁ。ちなみにアクセも意味あったりする?」


手首できらきらと光るそれを光にかざして眺めながら聞くと、元貴は少し黙ってから


「どうだろうね」


とだけ言ってにやりと口の端をあげて笑った。




ブレスレットの意味は『束縛』『そばにいたい』


※※※

バレンタイン企画で投稿した「Sugar」の続きの世界線のお話でした!

もっくんはプレゼントの意味とか結構気にしてそうだし、分かった上で重ためな意味をこめて涼ちゃんへのプレゼントを選んでたらいいな、って勝手に思ってます(笑)

この作品はいかがでしたか?

2,222

コメント

14

ユーザー

めっちゃ好きな作品♡ 涼ちゃんの感情の起伏が大きくて可愛い 流石もりょきです(〃艸〃)♡

ユーザー

さりげなくプレゼントで束縛意識をみせてくるもっくん最高です、、、!

ユーザー

バレンタインの方を読み返してから読みましたが、案の定にやけが止まりませんでした笑笑いろはさんが書かれるもりょきがだいすきです🫶❤️💛

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