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ミセス短編集

8 - 僕ら(大森×藤澤:甘)【フォロワー600人記念作品】

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2025年03月16日

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「ねー、元貴、これ知ってる?付き合う前の相性チェックってやつ」


僕はスマホの画面を元貴の方に見せる。もう付き合って2年にもなる恋人は、何を今更、というように訝しげな顔をした。


「いま流行ってるんだって。若い子の中ではこれの結果が悪いと付き合うの諦めちゃったりもするらしいよ」


彼は、なんだそれ、と口をへの字にして


「そういうのって、意中の相手とのあるかも分かんない共通項を血眼になって探してみつけて、『私とあの人って相性いいかも!』なんて信じ込むためのもんなのに本末転倒じゃない?」


と皮肉たっぷりに鼻で笑う。


「で?俺らはどうだったの」


なんだ気にしてるじゃん、とツッコミをいれると


「気にしてるのは涼ちゃんでしょ、わざわざ俺に言ってきたんだから」


付き合ってあげる俺やさしーなー、とわざとらしく上目遣いをしてくる彼を、はいはい、とあしらう。意外と乙女チックなところのある彼は、こういう診断系や占いを気にしない素振りでチェックしているタイプなのだ。


「えーとね、まずは……記念日などに対する価値観?」


つまり付き合って何ヶ月記念!みたいなのをどのくらいお祝いしたいかということだ。初っ端から僕は、苦い経験を思い出し思わず顔を顰める。


「これは俺らはほんと合わないよね〜、涼ちゃんすぐ忘れるし」


「すぐ」のところを強調するように話す彼。そう、もともと誕生日などの日付も覚えるのが苦手な僕は、あまり記念日などは気にしないタイプ。対して元貴はささやかな記念日でも何かとお祝いしたい方だ。付き合って1ヶ月記念を忘れていた時の元貴の拗ねようと言ったら言い表せない。僕の大好物でもあるプリン、しかもケーキ屋さんのいいやつを嬉しそうに買ってきた彼に


「今日なにかいいことあったの?」


と尋ねてしまったところ、は?と低い声で威圧される。


「1ヶ月前のこともう忘れたわけ?」


しかし最悪なことに付き合ったことのお祝いだなんて微塵も思いもしなかった僕は


「……?あ!元貴のお兄ちゃんとこの子がつかまり立ちしたって動画送られてきたのその頃じゃない?!」


などと見当違いも甚だしい発言をして、大いに彼の機嫌を損ねたのである。(二日間口を利いてもらえなかった。)

そこで懲りた僕は2ヶ月記念と3ヶ月記念は忘れることなく、元貴のリクエストもあって小さな花を買うなどささやかにお祝いをしていたのだが、3ヶ月記念日の数日後に事件は起きた。

元貴は朝からやたらと機嫌がよく


「今日はレッスンあるけど、夜は俺がご飯作るからね、何かリクエストある?」


なんて聞いてくる。なんだろう、と不思議には思いつつも、そのままレッスンに向かい、その日の夜。

元貴が差し出したのはおそろいのブローチがおさめられた小さな箱。


「今度の衣装でつけようよ」


「えっ、ありがと!かっわい~」


にこにこしながら元貴はこちらをみつめる。


「涼ちゃん」


「ん?」


「今日なんの日か分かる?」


今朝の違和感はこれか。えっ、でもなんだろう、先日3ヶ月記念日をお祝いしたばかりだし、付き合ったこと以外とか?そういえばこれは付き合う前だけど、メンバーみんなで初めてディズニーに行った日を彼はよく覚えていて、「記念日」みたいなものだからとか何とか言ってたっけ。いやでも本当に何も思いつかない。僕は下手なことを言って怒らせるよりかは、と思い正直に頭を下げる。


「わっかんない、ごめんなさい……」


元貴はしょげたように溜息をついてみせる。


「まぁそんな気はしてたけどね」


「えっ……ホントにわかんない、なんの日?」


「……付き合って100日記念だよ!」


不貞腐れた表情の彼に、僕はもう一度頭を下げた。


「それは……無理!」


かくして記念日は付き合った日のもので月単位だけにお祝いする事にしたのである。お祝いといってもささやかなものなので大変では無いが、僕としてはそろそろ年単位でもいいんじゃないかな、なんて思う。へそを曲げられたら大変なので言わないけれど。

さて、話を戻そう。相性チェックである。


「次は……食事の好みが合うことか〜」


これも元貴と僕ではてんで合わない。濃いめの味付けが好きでお肉が好きな僕と、比較的味付けは薄めが好みであまり主菜をがっつり食べるタイプではない元貴。そもそも食べる量からして全然違う。僕はかなり大食いで、元貴はまったくの少食。食べなくても平気だなんていうからちょっと信じ難い。

だから外食するとなると、お互い食べたいものが全然違うので困ることが多かった。最近では順番制にしたり、2人とも食べたいものがある店を選んだりと折り合いをつけるようにしている。

家で食事をする時は、僕はかなり味付けに気をつけるようにしている。濃い味付けが身体に悪いという彼の主張はもっともだと思ったし、これは元貴には内緒だが、自分の分だけあとから塩や醤油を足したりしている。

むむ、と唸りながら次の項目をみる。共通の趣味があること。これはセーフだ。2人ともゲームが好きだし、これはしょっちゅう2人でも一緒に楽しんでいる。それからあとは、生活習慣……あっこれもダメだな。僕は朝型で遅くても12時とかには寝ちゃうけど、元貴は完全夜型。僕が起きてったら眠りに行くなんてこともあるくらいだ。

結局、10個の項目のうち、僕らが当てはまったのは2個だけ。あとはふたりして全然別のタイプなのだ。しかもご丁寧にあてはまった数による「別れる可能性」まで示してくれている。ちなみに0~2個のカップルは90%。

なんとなく肩を落としてしまう僕に対し、元貴は「へ〜意外と面白いじゃん」と何故か楽しそう。


「おもしろくないよ〜だって僕ら90%の確率で別れるとか言われちゃってんだよ、どうしよう〜」


そう口を尖らせると、元貴は片眉だけ器用につりあげて、呆れたような表情を作る。


「こんな診断結果真に受けて上手くいかなくなるならそれまでだと思うけどね」


ずいぶん冷たい物言いに少し悲しくなる。別に僕だってこんな診断結果を信じ込む訳じゃない。でも、それでもやはり、こういった指標で「不似合い」だとレッテルを貼られることは、彼に対して真剣だからこそ気になってしまうものなのに。僕が黙り込んだのを見てか、元貴が再び口を開く。


「だいたいさぁ、この項目のどれも、俺らが合ってないものもこれまでにそれなりにお互い工夫して上手くやってきてることばかりでしょ」


記念日とか料理とか生活のこととか、と元貴は指折り数えてみせる。


「生まれも育った環境も違う人間同士なんだから、価値観が全く合うカップルなんていないよ。だからみんな喧嘩だってするし悩みもする。そういうめんどくささをもってしても一緒にいたいと思える相手だから、俺らもお互いに譲歩できるとこは譲歩して価値観を擦り合わせてんだろ」


付き合うってそういうことじゃないの、と彼は何気なく言う。そうか。たしかにひとりでいる方が楽だな、なんて思うこともある。それでも合わせられるところは合わせてでも彼といたいと思えるから、僕らは一緒にいるんだろう。


「それにね、こんな結果で簡単に揺らいでもらっちゃ困るんだよね。ようやく手に入れたんだから、そんな簡単に手放してあげたりしないよ」


涼ちゃんがやだって言っても追いかけるもんね~、と軽口を叩きながら彼は僕の腰を抱き寄せてキスをする。こうして大切なことに気づかせてくれる彼と過ごせる僕は、世界一の幸せ者かもしれない。


「ところで涼ちゃん」


「なぁに?」


「今日何の日か覚えてる?」


僕は慌ててスマホの画面を開いた。


「……2年記念日です」


「涼ちゃん」


元貴はそれはそれは美しく微笑んでみせる。


「……ハイッごめんなさいッ」


「まだ何も言ってないだろ!せめて診断の最初の項目で気づけっての!」


元貴は怒りながらも呆れたように笑う。

きっとこれから先もこういうことはたくさんあって、(記念日は忘れないようにしたいと思うんだけれど)、僕らは僕らのペースを二人で作り上げながらやっていくんだろう。


※※※

平和な日常系で甘いお話にしよ〜と書き始めたらちょっとギャグ風味に?

記念作品ということで「記念」つながりのテーマでした。

フォロワー様600人突破ありがとうございました!

これからもよろしくお願いします〜

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