始めに、これは夜神月がLに自らキラだと名乗り出た世界線の話です。名乗り出た後、所有権を放棄した為、記憶は無い。自分がキラなのかは半信半疑の状態だが、新たに落ちてきたデスノートを探し出すため、Lと協力している。(ミサも同様) また、この作品にはBことビヨンド・バースデイが登場しますが、月・ミサとはキラ事件の時に面識がある設定です。また、『事件は起こしましたが、三人目の被害者で止まっています』。
物語は順番通りに進んでいくので、好きなキャラのみ飛ばしてもらって構いませんが、一つずつ読むことをオススメします。
以上大丈夫な方のみ、お進み下さい──
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✺ 1ページ目:冒頭 全員集合
✺ 2ページ目:L&ニア
✺ 3ページ目:月&ミサ
✺ 4ページ目:粧裕&メロ&マット
✺ 5ページ目:B&月&ミサ
✺ 6ページ目:L&B&ニア&メロ&マット
✺ 7ページ目:ミサ&粧裕
✺ 8ページ目:月&L
✺ 9ページ目:ニア&メロ
✺ 10ページ目:B&???
✺ 11ページ目:全員集合
✺ 12ページ目:最終話 全員集合
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✺✺✺
夕暮れ時。日が沈みだし、夕日が赤く木々を照らしていた。
慣れない下駄とストライプのグレーの浴衣で僕は妹の粧裕と共に花火大会の会場に向かっていた。
「ああ!ミサさんの浴衣姿楽しみー!」
今回、粧裕とミサが花火大会に行きたいという申し出により、僕たち男子は花火大会に付き合わされることになった。全員浴衣で来る事が条件だが……あのLの浴衣姿なんてとても想像ができない。面とあったら笑ってしまうかもしれない。ミサの浴衣姿よりも、Lの浴衣姿がどんなものなのかそっちの方が気になる次第だ。
「お兄ちゃん、浴衣似合ってるよ?」
呼ばれ、粧裕の方に目を向けると、無邪気にニコッと笑った。
白地の浴衣にピンクの朝顔の浴衣を着た粧裕。着物に合わせたピンクとオレンジのツマミ細工髪飾りに、髪は緩く巻き、サイドをねじって後ろでまとめている。
出かける30分前に粧裕が上手く髪がまとまらないと泣きつかれ、ヘアセットなんてやったことないが、参考動画を見て試行錯誤で粧裕の髪型をセットしてやったのは内緒にしておこう。美容師ほど綺麗に仕上がってはいないが、違和感などない為、黙っておけばセットしてもらった感は出ている。
「粧裕も似合ってるよ。二人で祭りなんて、いつぶり?」
「粧裕が小学生の時以来かな?お兄ちゃんの友達と一緒に行った覚えがある!」
「そうだったね。あの時もあそこで花火大会やってて、粧裕が足が痛い、帰りたいってぐずったの今でも覚えてるよ」
「ええ?そんなことあったけ?」
粧裕は頬をかきながら、申し訳なさそうに苦笑いした。
「あったあった。もう家まで歩きたくないーって言うから、僕がおんぶして帰ったじゃないか」
粧裕は眉をひそめて、記憶を辿りながら思い返していた。
「あの時、寝ちゃったから覚えてないんだろ」
「そうだったかな?全ッ然覚えてないや!」
「ま、子供だったしな」
「お兄ちゃんだって子供だったくせに」
段々と祭り会場に近づき、太鼓の音や火を炊く音、人々よ騒音が鮮明に聞こえるようになってきた。
「あっ!そういえばお兄ちゃん、小さい頃祭り行った時に迷子になったことあるんでしょ?」
「え?僕が迷子?」
「そう!お母さんから聞いたよ。勝手に一人でどっか言っちゃって、優しいおじさんに助けられたって」
そんなことあっただろうか。
僕は腕を組み、顎に手を当てて思い返してみる。が、そんな記憶はとうの昔に忘れてしまった。母さんが言ってるんだからそうだろうけど、小さい頃の僕って祭りで迷子になるほどマヌケだっただろうか。
「まだ粧裕が3歳だった時の話!覚えてないの?」
「……覚えてない……」
「その後、お巡りさんのところ連れてかれて、お父さんが泣きそうになりながら迎えに行ったって」
「……んー、子供の頃の事はあんまり覚えてないな。ましてや、そんなに小さかったら尚更……それで?僕は父さんと母さんに叱られたって?」
「いや?寧ろ、お母さんが叱られたみたいだよ。ちゃんと見とかなきゃダメだって」
「……母さんに悪いことしたな。だから、出かける前にあんな心配されたのか。僕のこといくつだと思ってるんだか」
「責任者はお兄ちゃんなんだから、ちゃんと粧裕のこと見ててよね?」
「はいはい」
「粧裕のこと置いてきぼりにしたら許さないから」
兄妹だからこそ話せる会話が楽しくて、僕は自然と笑みが零れた。こんな風に誰かと楽しく遊びに行くなんていつぶりだろうか。中学生になってからずっと勉強勉強で遊んでいる暇すらもなかった。こんな風に遊べるのも……ある意味僕を許してくれたLのおかげなのかもしれない。
(Lには感謝しなきゃな……)
最初はいけ好かないやつだと思っていたが、僕がキラかどうかは置いておいて、“自白した僕を警察には突き出さずに隠蔽”してくれるとは思わなかった。
そう考えるとLって勝手な探偵だなとは思うが、それがLの良いところなのかもしれない。
粧裕と二人で暫く道なりを歩いていくと、段々人の通りが多くなってきた。皆向かう先は祭り会場。家族やカップル、年配の方に若い夫婦、沢山の人々がこの花火大会に集まっている。
そんな中、一際目立った声が後ろから聞こえてきた。
「月〜!」
何百回と聞いたその名前の呼び方に僕は足を止め、後ろを振り返ると、ミサが手を振りながら駆け寄り、いきなり立ち止まった。
「どうした?」
ピタッと時が止まったかのように動かなくなった彼女に首を傾げると、両手を口元に当てて目を輝かせた。
「月ぉ!かッこいい〜!!」
感動に打ち震えている彼女は水色の浴衣を着ており、水彩花の透明感ある浴衣を纏っており、襟元もしっかりしており、帯も綺麗に着付けられている。髪型もいつものツインテールではなく、後ろでひとつにまとめていた。なんだか、ミサが好き好んで選んだ浴衣には思えず、その背後を感じた。
「ミサもよく似合ってるよ。綺麗だけど、それ自分の浴衣なのか?なんだか、僕が思ってたのと違うというか……」
「これ?ううん。ミサのじゃないよ。実はミサ、盆踊りのステージで踊ることになっちゃったから、事務所が用意した浴衣なの……ごめんね、月……好みじゃなかった?」
「いや、ミサは何着ても可愛いから……」
そこまで言いかけて、僕は言葉を失った。ミサが泣きそうな顔で微笑み、強く握りしめられたカバンはフルフルと震えていた。
「………………」
本当は好きな浴衣を着たかっただろうに。この祭りを誰よりも楽しみにしていたのはミサなのだから。
何とか元気付けであげられないだろうか。
まだ夏祭りは始まってもない。出だしからそんな嫌な思いをしてたんじゃ、良い思い出は作れない。
ミサを元気付けられるのは僕しかいないのも分かってる。なら──
僕はミサに手を差し伸べて笑った。
「……?」
ミサはその手をじっと見つめ、不安げに僕を見上げた。その見上げた目の端には涙が溜まっていて、瞬きした時にポタッと雨の雫のように垂れた。
「手、繋がないのか?」
ミサは僕の意図を読み取ったのか、涙を拭うと、歯を見せて笑ってみせた。
「……繋ぐに決まってる!」
ミサの小さな手が僕の手を握った。僕もミサの手を握り返すと、いつものミサのテンションに戻った。
「月も粧裕ちゃんも最っ高に浴衣似合ってる!」
「本当!ミサさん!」
「うん!その髪型は美容院でやってきて貰ったの?」
「実は〜……」
「いい、言わなくていい、粧裕」
言わなければ、美容院でやった風に見えるんだから言うな言うなと空いた手で合図すると粧裕は楽しそうに笑った。
「はい、はい」
ミサとも合流し、後はL達だが何処にいるのだろうか。一応約束場所までは向かうが、歩いているうちに見つかりそうな勢いだ。何せあんな個性的なやつ他にいないからな。
「そういえば、さっき竜崎さんらしき人見かけたよ?人混みに紛れちゃったから見失っちゃったけど……」
「すぐ見つかるだろう」
そう言った矢先、すぐに見つかった。
僕たちの斜め先にいる。
丸まった腰は相変わらずで、メロはガミガミとニアに文句を言い、ニアはLに引きずられるように手を引っ張られている。その先には歩きながらゲームをしているマットが危なっかしくて、なぜかあそこの周りだけ人が避けているのが分かる。
相変わらず曲がりきった腰……傍から見たら孫に振り回されているおじいちゃんだ。
振り回されているLがなんだか可哀想に見えてきて、助けてやろうとLのそばに近寄った。
「おい、竜崎」
いつもよりまとまった黒髪に、紺色の刺し子(しま模様)の浴衣を着た彼に声を掛けると、Lは振り返った。
「夜神くん、助けてください」
第一声で助けを求められた。
僕はゲームに夢中で前なんて見ていないマットの襟元を掴み、動きを止めた。すると、マットがあっ!!と大きな声を出した。
「おい!死んだじゃん!何するんだよ!」
「ゲームしながら歩くな。前見て歩け」
いつも頭にしているアイデンティティと言っても過言では無いゴーグルは付けておらず、深い緑の波模様の浴衣を着ていた。
そのマットの横にはメロ。僕を見かけたメロはまるで犯人でも見つけたかのように指を指し、口を開けた。
「夜神月……」
メロは黒い浴衣に金箔が散らされた派手な着物を着ている。
Lの隣で大人しく手を繋がれているニアは白地の浴衣にトンボの絵が描かれた浴衣を着ており、窮屈そうにしていた。その不満をぶつけるためか、ニアは髪をクルクルと指で絡めながら、ニヤリと笑いハッキリ言った。
「キラ……」
僕はムッとニアを睨むと、Lがニアの前に入って、僕との距離をとった。
「それはもう言わない約束です。ニア」
「……事実を述べただけですよ」
Lに叱られ、不貞腐れたようにそっぽ向くニア。どうにもこの子とは波長が合わない。
そんな時、粧裕が僕の後ろに隠れた。
どうしたのかと横目で粧裕を見てみると、不安げに金髪の少年、メロを見つめていた。
粧裕はメロとニア、マットとは初対面だ。少し抵抗があるのかもしれない。しかし、年齢はそこまで変わらない。仲良くなれてもおかしくは無いのだが……。
そんな粧裕をメロはじっと見つめていた。それが粧裕には怖いらしく、あの鋭い目つきで睨まれては、誰だって怯んでしまうだろう。目を合わせないように、僕の後ろに隠れていた。
「竜崎さん、浴衣超似合ってるじゃん!」
「そうですか?浴衣を着たのは初めてです。腹の部分を除けば意外と着やすくて驚きました。ところでミサさん、その浴衣ご自分で?」
おい、地雷を踏むな、竜崎。
「……えっと……これはかくかくしかじかで……」
Lとミサが話してる中、僕はニアに目線を落とした。ニアは無愛想な顔で僕をじっと見つめながら髪をくるくると巻いている。
「ニア、浴衣とっても似合ってるよ、着ずらい?大丈夫?」
少しずつ距離を詰めていこうと思い、声をかけるも、ニアははあっとため息をついて、Lの足元に隠れてしまった。
(だめか……)
そんな中、メロは粧裕に興味があるのか、マットと二人で粧裕を詰めていた。
「へぇ?可愛いじゃん」
「お前、妹か?」
「名前は?」
不良二人に詰められ、オドオドと焦りを隠しきれてない粧裕。僕は守らなくちゃと勝手に体が動き、メロとマットを粧裕から離した。
「粧裕は僕の妹だ。優しくしてやってくれ」
「ふぅん?」
「粧裕ちゃんって言うの?俺マット、よろしく〜」
メロはつまんなさそうに頷くと、突然背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「やあ」
そのただならぬ気配に、全員が警戒心マックスで振り返る。と、そこには漆黒の黒い浴衣と紅い帯で締めたBが立っていた。
Bは真っ先にLの方を向くと、にやぁっと笑った。
「L、まさか本当に浴衣を着てくるなんて、くっくっくっ」
「そういう条件だったでしょう」
Lはサッと目を逸らし、ニアと同じ顔でそっぽ向いている。
僕は目があったBとクスッと笑った。
「さっ!全員揃ったし、行こ〜!」
ミサの明るい声に空気は変わり、僕たちは異質なメンバーで祭り会場へと向かった。