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お母さんもお父さんも優しい。
朝は笑って「行ってらっしゃい」って言ってくれるし、誕生日には手作りのケーキを焼いてくれた。
「ナマエ、今日はお母さんとお揃いのワンピース着よっか!」
二人とも笑顔が大きくて、抱きしめてくれる腕はちゃんとあたたかかった。
でも。
「なんで、言うこと聞けないの!?」
怒ったときだけ、世界が変わる。
殴られ、机が蹴られ、ナマエは床に小さく丸まるしかなかった。
「お母さんを怒らせたのは、あんたでしょ!?悪い子!ほんとに最低!」
(……あ、これ、“怒ったときの怖い“お母さんだ)
そうやって切り替えて、自分の感情を閉じ込めるようにしてきた。
学校では、友達もいた。
一緒にお弁当を食べて、鬼ごっこをして、笑いあった。
でも、いつの頃からか、変わっていた。
「ミョウジって、なんか空気読めないよなー」
「この間さ、先生にちょっと話したら……あれってチクったのかな〜って思っちゃってさ」
本人のいないところで囁かれる声。
“仲良し”のふりをしたまま、机が移動され、持ち物がなくなり、呼ばれなくなった。
『私、いじめられてる?』
そう思ったのは、ずいぶん後になってからだった。
誰にも相談できなかった。
家に帰っても、お母さんの機嫌を損ねないように息を潜めて、
学校でも、誰かに嫌われないように“いい子”でいようとした。
そして覚えた。
「大丈夫」って、笑ってやり過ごすこと。
「気にしてない」って、見ないふりをすること。
ほんとうは、ずっと、しんどかったのに。
⸻
ベッドの上。
訓練後で疲れているはずなのに、ナマエは目を開けたまま天井を見ている。
(……先輩が、優しくするの、怖いな)
あんなに優しくされたら、期待してしまう。
「もしかしたら、この人だけは――」なんて。
でも、きっと出水先輩も、他の人と同じ。
何かの拍子に、「ああ、面倒な子だったんだな」って思われて、
離れていって、知らないふりされる。
だったら、最初から踏み込ませなきゃいい。
『……先輩って、ほんとずるいよ』
声に出したけど、誰も聞いてはいなかった。
ーー
実は作者の実話をちゃっかり入れちゃってます(´-ω-`)