サイド ルネ
「昨日の夜完成したんだ」
そう言い、ダイチはパーカーのポケットから茶色の封筒を取り出した。
「?これ、何?」
「ナイショだ!家に帰ったら開けてみろよ!きっとルネ、ビックリするぜ!」
ダイチは少し強引に俺に封筒を押し付けた。
「へぇ〜、どれどれ……」
「“家に帰ってから”、……開けてくれ」
……今見られたら困る。ダイチの目がそう語っていた。
笑っているのに笑ってない瞳。大嫌いな、俺と同じ偽りの笑顔になっていた。
とても、嫌な予感がした。
「……何を、するつもりなの?」
「こっからはモンダイジ団のしての活動だ。ルネには関係ねぇ」
それはハッキリとした拒絶。ダイチは俺がこう言えば引き下がるしかないこと、分かってたんだろうね。現に、俺は諦めた。
「……分かった。けど、一つだけ言わせて」
曇り空の下、俺とダイチの間に重い、重い風が吹いた。とても、長い一瞬だった。
「……気をつけて帰んなよ?」
「……ああ!」
嘘だ。そう思ったのは、ダイチが一度も振り返らなかったから。
ダイチの姿が見えなくなって、すぐに俺は手元の封筒を開けた。
少しでも嫌な予感が薄れることを期待したかったんだよね。
周囲の音が遠く、自分の心臓と呼吸音がすごく大きく聞こえた。
「…………ッ!!」
たった二文字の最初の一行。
それを見て俺は躊躇(ためら)いなく走り出した。ダイチの後を追うために。
制服だったから動きにくかった。ものすごく煩わしかった。今日買ったあのTシャツに着替えなかったことを後悔した。
近くの踏切が見えたとき、
『遺書』
その二文字を具現化するような甲高いブレーキ音が耳に突き刺さった。
ダイチがいつも身につけるあの赤い帽子やパーカーの色が、ヒーローの色、希望の色だとするのなら。
今、ここに広がる赤い、紅い、ダイチの中にあった液体は、きっと絶望の色なのだと俺は頭の何処かで感じていた。