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#シリアス
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難関校の壁は、想像以上に高く、そして厚かった。
初めての定期テスト。
ひまりが震える手で差し出した成績表には、学年順位「下から数えた方が早い」数字が並んどった。
「……ごめんなさい、パパ。あんなに塾に行かせてもらったのに、私……」
ひまりが、今にも消え入りそうな声で俯く。
事務所の空気が一気に通夜のように静まり返った。
和幸も長治も、かける言葉が見つからず、気まずそうに目を逸らしおった。
俺は黙って成績表を手に取り、眼鏡の奥でその数字をじっと見つめた。
「……ひまり。顔を上げぇ」
俺はあえて低く、威厳のある声を出した。ひまりがビクッとして俺を見る。
「……この『数学』。前回より平均点は下がっとるのに、お前、計算問題だけは一問も間違えとらん。……それからこの『理科』。植物の暗記は全滅やが、心臓と血流の問題は満点や」
「……えっ?」
「……ええか。極道の世界でも、最初から『親分』になれる奴はおらん。まずは自分の得意なシマを一つ、確実に守るところから始まるんや」
「……お前は、医者になるために一番大事な『体の仕組み』で、誰にも負けとらん」
俺はひまりの頭をガシッと掴むように撫でた。
「……順位なんぞ、ただの『勢力図』や。塗り替えればええだけのこと。……今日は負け戦の反省会や。和幸、例のブツを持ってこい!」
「へい、兄貴! 特注の『癒やしの極み』セット、入りましたッ!」
和幸が運んできたのは、ひまりがずっと欲しがっとった
最新型の「電子辞書」……やなくて
ひまりが幼い頃に大切にしていたぬいぐるみの『完全修復版』と、超高級ホテルのパティシエに作らせた「バケツ一杯のプリン」やった。
「……成績が悪かったからって、お前が頑張った事実が消えるわけやない。…今日はこのプリンを全部食らって、悔しさを糖分に変えてまた頑張るんや」
「パパ……! …うん、私、次はもっともっと頑張る!」
ひまりが泣き笑いのような顔でプリンにスプーンを突き立てる。
その姿を見て、俺は和幸に目配せをした。
◆◇◆◇
ひまりが寝静まった後、俺は事務所のデスクに、ひまりの苦手な科目の教科書を広げた。
「……和幸。…明日から、組員全員で『植物の分類』と『古文の助動詞』を徹底的に叩き込む。ひまりが次に質問してきた時、全員が講師レベルで答えられるようになっとけ」
「兄貴……それ、自分らも中学の勉強やり直しってことっすか!?」
「……当たり前や。成績が上げるにゃ、周りの教育環境も大事やろ。ええか、これは『学力』という名のシマを取り戻す抗争や。一問のミスも許さんぞ!」
「「「ハッ! 御意ッ!!」」」
深夜の事務所に、ドスの手入れの音ではなく
単語帳をめくる音と「『を・に・が・と・より・から』は格助詞ィッ!」という怒号が響き渡った。