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ここは梟谷男子バレー部の部室。
主将の木兎と副主将の赤葦が反省会をしていた。
内容は今日の音駒との練習試合について。
他の部員たちは試合が行われた音駒高校からそのまま帰宅したから部室には2人きり。
「1年の〇〇、今日調子よさげだったよな!」
「そうですね。今日というか最近、自主練頑張ってましたからその成果でしょうね。」
「さすが!あとはなんかあったかな…あ、あれだ。俺が黒尾に止められたやつ…ドシャット…」
「あれはまぁ…悔しいですけど灰羽もちゃんと着いてきてたし多分黒尾さんに止められなくてもコース絞られて夜久さんに拾われるのがオチです。俺のトスも低かったですし…」
「音駒の粘り強さはやばいから早めに切らねえとだな!」
2人で一通りの反省点を出し、明日からの練習メニューを考える。
「こんなもんか…時間いつもより全然あるけどどうする?2人で練習してく?」
「今日俺たち練習試合行くから体育館は男バスが使うって言ってましたよ。」
木兎が残念そうにじゃあ帰るか…と言いかけたところで赤葦が引き止めた。
「あの、もし時間あったら、相談…とか乗ってもらえませんか?」
普段頼りっぱなしの赤葦からの相談。
先輩として是非とも乗ってやりたい と木兎は快く引き受けた。
「実は俺…黒尾さんが好きなんです。」
後輩からの相談はまさかの恋愛相談だった。
「やっぱり変ですよね…」
「いやいや、全然!そういうのはさ、個人の自由だし!」
それも相手は男で木兎のよく知る友人だった。
「それで、俺もっと仲良くなりたいんですけど…木兎さんなら黒尾さんと仲良いでしょう?」
「あ〜!オッケー、黒尾とのデートセッティングしてやるよ!」
驚きはしたが木兎の持ち前の適応能力を活かしてすぐにそう提案した。
「えっと、急に2人は緊張するので木兎さんも一緒じゃダメですか…?」
上目遣いでそうお願いされたら何故か断れなかった。
「木兎から誘ってくるなんて珍しいな!それに赤葦も」
部活のない日曜日。
木兎が黒尾に連絡して赤葦と3人で出かけることになった。
「黒尾さん…私服かっこいいですね。」
「おぉサンキュ」
この2人と一緒にいて木兎は気づいてしまった。
赤葦からは聞いているから当たり前だが黒尾の方だ。
明らかに意識してるし思い返してみれば練習試合のときなども他校でも赤葦にだけは頻繁に声をかけている。
むしろ何故今まで気づかなかったのだろうと思うほどにそういう雰囲気だった。
木兎は疎外感以外の何かを感じた。
あれから時は流れ今日から合宿。
今回は森然高校で行われる。
黒尾に会えるのを、もちろん合宿自体もだが楽しみにしていつもより機嫌のいい赤葦とバスに乗った。
木兎は赤葦から頻繁に相談を受けているから知っているが黒尾とは特に進展はないらしい。
全ての学校が揃い一日目の練習が始まった。
木兎が注意して見れば見るほど黒尾は赤葦のことしか見ていないのが分かる。
もちろん試合中とか見てない時もあるけど、見つめている時の熱視線。
見ててモヤモヤした。
「木兎、集中!」
大好きなバレーの試合中にそんなことを言われるほど考え込んでいた。
夜になり主将会議という名の雑談会が終わり木兎と赤葦は梟谷に割り当てられた部屋へと向かっていた。
主将会議をしていた教室からは微妙に遠い。
その間赤葦は木兎に黒尾の話をしていた。
「…でも全然黒尾さんは俺の事なんて見てくれてないですよね。やっぱり俺に魅力がないからかな…」
赤葦がそう零した。
そんなことない、黒尾もお前のこと…木兎は言いかけてやめた。
薄暗い廊下で月明かりだけに照らされた赤葦から目が離せなくなったから。
(あれ、赤葦ってこんなだったっけ?…俺、)
「好きだ。赤葦。」
「え?」
自然と口に出していた言葉に木兎本人も驚いていた。
しかし木兎は誤魔化すことも訂正することも無く赤葦の腕を掴んで引き寄せる。
「あんな奴じゃなくて、俺にしてよ。」
赤葦は驚いたように木兎を見つめそれから視線を逸らすとボソリと呟いた。
「…俺の事、大事にしてくれますか。」
「もちろん!黒尾なんかより絶対!絶対幸せにする…!」
「俺も木兎さんのそういうところ好きですよ。」
赤葦は木兎に掴まれていた腕を首に回してキスをした。
「今のが返事ということで。」
そう言ってまたスタスタと歩き始めた。
次の日。
昼頃までには梟谷のメンバーから
「お前ら付き合ったってマジ!?」
と聞かれまくり、その日のうちに他の学校にまでその噂は広まっていた。
木兎が自慢げに話していたからだ。
もちろんそれは音駒、黒尾の耳にも入った。
恒例になってる第3体育館での自主練。
「木兎、ちょっといいか?」
体育館の端に座って水分補給していた木兎に黒尾が声をかけた。
赤葦は月島と練習している。
「お前 マジで赤葦と付き合ってんの?」
「うん!」
「…そっか」
分かってはいたのに本人の口から聞くとダメージがでかい。
これ以上は聞きたくなかったが自分から話を振ったので仕方ない と黒尾は木兎の話を聞いた。
「いや〜ホントさ、もっと早く付き合えばよかった〜って感じ?マジあいしょーピッタリだし、お互い他の奴らより長い時間一緒に過ごしてるし…」
ひとしきり惚気話をしたあと木兎が立ち上がり黒尾の耳元で低く囁いた。
「赤葦はもう俺のモンだから」
「…!」
「あっかあし〜俺にトス上げて!」
そのまま木兎は赤葦の元へ走っていった。
さっきの惚気の延長なのか挑発なのか…
「クッソ…」
おそらく後者だろうなと思った黒尾の嘆きは静かな夜に消えていった。
「早くしないと食堂閉まるからね!」
様子を見に来てくれたマネージャーに声をかけられ自主練を切り上げる。
「昨日黒尾さんと赤葦さんが片付けしてくれたんで今日は先食堂行っててください。」
という月島の計らいで黒尾と赤葦は体育館から去った。
「木兎さんって、」
「うん?」
「いつから赤葦さんのこと好きだったんですか。」
月島の質問に木兎はあっけらかんと答えた。
「最近!昨日とか?」
「…黒尾さんが赤葦さんのこと好きなの知ってましたよね?」
「あいつ以外とわかりやすいよな!」
「昨日もわざと片付けで2人残したり…協力してたんじゃないんですか?」
「あ〜、まぁね。でもさ…….欲しくなっちゃったんだもん。」
一切悪気のない木兎に月島は何も答えない。
「人が欲しいものって欲しくなるでしょ?人の食ってる物は美味そうに見える。」
月島はそこまで聞くと一変していつもの人を見下すような笑みを浮かべた。
「手に入れた気になって安心してたら、誰かに取られちゃうかもですね。…例えば僕とか。」
自分のタオルを拾って出入口に向かって歩き出した。
「略奪愛って最高だと思いません?あっ戸締りよろしくお願いしますね。」
「赤葦、次 風呂2年だって。」
「ありがとう 孤爪。一緒に行こう、ちょっと待ってて」
赤葦は残っていた米を口に詰め込むと席を立って一緒に食べていた木兎や黒尾、月島に一声かける。
呼びに来た孤爪と共に浴場へと向かった。
廊下に差し掛かって騒ぎ声も小さくなってきた頃に孤爪が口を開いた。
「どこからどこまでが赤葦の計算通り?」
「なんの話?」
「木兎さんと付き合ったんでしょ?」
「木兎さんから告られたんだよ。」
「でも赤葦はクロが好きだった。」
「うん。でも俺、木兎さんのことも好きだよ。」
孤爪は小さくため息をついた。
「なんとなく気づいてるから、おれの前で猫かぶんなくていいよ。」
「…なーんだ、バレてたのか。」
「それでどこから赤葦の掌の上なの?」
「黒尾さんが俺の事好きって気づいた後からかな。」
そう、実は黒尾の好意に気付いた赤葦はわざと木兎に恋愛相談をした。
木兎の性格上 きっと黒尾の様子を見たら自分のことを好きになると思ったから。
「木兎さんが黒尾さんの方を好きになるっていうリスクもあったんだけどね。」
しつこく聞いてきた割には孤爪は興味なさげの反応。
「なんでわざわざ面倒臭いことするの?」
「俺は愛されたいだけだよ。愛はいくらあったって困らないっていうか満たされないっていうか…もちろん貰った分の愛はちゃんと返すよ。」
初めて見る赤葦の笑顔に戸惑いながらも孤爪は聞いた。
「じゃあ赤葦はおれが赤葦のこと好きだったっていったらどうする?」
「俺も好きだよ。って言うかな。」
「おれ多分クロよりも前から赤葦のこと好きだよ。もちろん今も。」
「こんな俺の本性を知ってもまだ好きなの?孤爪も物好きだね。」
面倒臭い先輩やらその他もろもろをたぶらかしている自分を棚に上げて…と孤爪は思ったがそれは言わなかった。
「むしろ おれしか知らない赤葦って感じで前より好きかも。」
「ねぇ俺たちタメだしもっと親しくなってもいいと思うんだ、研磨。」
「京治のそういうところホント可愛い。」
無気力そうな顔して狙った獲物は逃がさないのが赤葦京治という男。
愛を求める赤葦と振り回される男達。
これはとあるバレー部男子達の青春のお話。