夕方なのにまだまだ暑い。その上、隣町の駅は祭り目的の人たちでごった返していて、熱気で汗が全身から噴き出してくる。駅の中でそうなのだから、駅から祭り会場までの一本道の混み具合は言うまでもない。一本道の両側に屋台が連なっている。
「何か冷たいもの買うよ。何がいい?」
「ビール」
「ビールね。――ええっ!」
「何をそんなに驚いているんだ?」
「びっくりした。僕を驚かしただけか」
「何を言ってるんだ。このお祭りの熱気だぞ。ビール飲んで、ぷはあとやりたくなるじゃないか」
オヤジか? 少なくとも僕にはそれを買う度胸がなかったので、結局缶ビールは彼女が買った。よほど好きなのか二本も。僕が自分に買ったのはりんごジュース。ほかにジャンボフランクを買った。彼女の希望。それにした理由はビールに合うから。
「ボクは法的正義より哲学的正義を重視する」
「哲学的正義?」
「そうだ。そもそもなぜ未成年者はお酒を飲んではいけないと法で定められているんだ?」
「体に悪いから?」
「そうだ。大人なら問題にならない量でも子どもの体には取り返しのつかない事態を引き起こすこともあるだろう」
「じゃあ、やっぱり子どもは飲まない方がいいんじゃ……?」
「ボクはもう子どもじゃない。お酒で失敗もしない。だから大丈夫だ」
恋愛では大失敗してるけどね、とはもちろん口にしない。
食事用のテーブルがいくつか並んでいる一角があったので、そこで飲み食いすることにした。
「祭りの夜に乾杯!」
ビールに口をつける前から彼女はすでに上機嫌。乾杯するなり缶ビールをゴクゴク飲みだした。あっけに取られて僕はりんごジュースを手に持ったまま。
こんな場面を学校の先生に見られたらとこっちは気が気でないのに。飲酒喫煙は別室登校謹慎。それは同席者、つまり同じ場所にいた者も同罪とされる。彼女はのんきなものだけど、見つかればどうせ僕が悪者にされるのだ。