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ふわりと目を覚ました彼は、グズることなく笑った。
「あーっ!」
手を伸ばした先には、羽の生えた小さな女の子たちが飛んでいる。
妖精と呼ばれる部類の生き物だ。
『起きた、起きた。」
『みんなを呼んで来なきゃ。』
『今日は何をする?』
赤、青、黄色、ピンク、緑…。
色んな色の衣装を纏った妖精たちが彼の周りを飛び回り、伸ばした手に止まったり、髪を引っ張ったりする。
『ほら、来たよ。』
『守護神の登場だ。』
『大事、大事。』
彼の視線が、妖精たちからそちらへ移る。
『…。」
もふもふとした毛を掴み、彼は顔を擦り寄せてきゃっきゃと笑う。
守護神と呼ばれた大きな狼は、彼を抱くように寝そべった。
『フェンリル、フェンリル。』
『ユニコーンは?ユニコーンは?』
『今日は来んぞ。』
フェンリルの毛皮に包まれ、妖精たちに手を伸ばす、彼の名は。
『お名前、ついた。』
『りょうかだって。かわいいね。』
『かわいい、かわいい。』
彼のベッドのそばには、一枚の紙が貼られている。
そこには、墨で名前が書かれていた。
慣れた字体で『涼架』と。
『涼架、か。健やかに育てよ。』
子犬をあやすように、フェンリルは鼻先で涼架をつつく。
くすぐったそうに、彼はまた笑う。
『楽しそうね、お邪魔しても良いかしら?』
僅かな風と共に、細身の少女が現れる。
『シルフか。またどうしてここに?』
『妖精たちが騒いでるわ。視える子が産まれたと。フェンリルが護衛についたと。それは見に来なきゃでしょう?』
僅かに風を起こしつつ、彼女は涼架を覗き込む。
『あら可愛い。私も分かるかしら?』
怯えることなく、彼は差し出された指を握った。
『じきにウンディーネも来るわ。ノームとサラマンダーは怖がらせちゃいけないからって。ティターニアもそのうち来るかもね?』
『妖精王もか。』
フェンリルの眉間に微かに皺が寄る。
『祝福をしに来るだけなんだから、そんな顔しないの。…ほら、ウンディーネも来た。」
部屋の隅に空気中の水分が集まり、水の玉と化す。
その水の玉から、早熟な少女が現れた。
『水がないのは、不便ね。』
『いらっしゃい。この子よ。』
他の妖精たちを連れつつ、ウンディーネも彼の側へと寄っていく。
『何、男の子なの?』
『そうよ?こんなに可愛いのにね。」
フェンリルに抱かれ、風と水の妖精を前にしても、涼架は動じなかった。
むしろ、遊んでもらおうと手を伸ばした。
『じゃあ、将来は…。』
『お前にはやらん。此奴の命運は決まっている。』
さらに近付こうとしたウンディーネを、鼻先で追いやってフェンリル続けた。
『未来で待ってる奴がいる。渡せるまで、守る。』
『過保護ね。』
フェンリルの鼻先からふわりと抜け出した二人は、笑いながら宙を舞う。
『祝福を。』
『サラマンダーとノームの分まで、祝福を。』
宙を舞う二人を眺めていた涼架だったが、手が届かないとなると、泣き始めた。
『大人が来るよ。』
『大変、隠れなきゃ。』
『大変、逃げなきゃ。』
慌てた様子で妖精たちが消えていく。
『私たちも行きましょ。』
『そうね、厄介は起こしたくないわ。』
ウンディーネは水となり、シルフは風となり。
『やれやれ、面倒な。』
フェンリルは立ち上がり、身体を一度震わせて。
それぞれに消えていった。
遊び相手がいなくなり、ますます泣く涼架。
「はいはい、どうしたのかな?」
母親の声がしたのは、その直後だった。