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……彼女といると、愛しいと思える気持ちが知らずに加速していくようで、
これほど心穏やかな時を、女性と過ごしたこともないと感じる。
船を降りて水辺を歩きながら、父と訪れたレストランがあったのを思い出して、彼女の手を引いた。
──と、手が握り返されて、一瞬驚いて彼女を見つめた。
繋いだ手を温もりが伝わるのを感じると、自然と握る手にぎゅっと強く力が込もった……。
食事を終えて、帰りの車の中で、
「……少しは、好きになりましたか?」
尋ねてみると、彼女が思い悩むような表情を浮かべて、
ふと自分がいつも迷った時に訪れていたあの場所へ、行ってみようかと思い立った──。
いつも変わらずに、私を迎え入れてくれる此の場所が、
彼女の心にも安らぎを与えてくれたらと思う。
誰かと来ることなどは永遠にないだろうと感じていたこの”すすきヶ原”に、彼女と二人でいることが、信じられないようにすら思える。
まさか、こんな風に誰かを此処へ連れて来るなど、かつては考えたこともなかったのにと──。
寒そうに身を震わせる彼女に上着を掛けて、風を避けるように傍らに寄り添いながら、
まるで心象風景のようなこの景色を、愛しいと感じられる人と共に見られる想いを噛み締めていた……。
「もうだいぶ冷えてきたので、帰りましょうか」
車の中に手を引いて戻り、どちらからともなく顔を寄せ合い口づけを交わすと、
彼女がいつか迷いから解かれて愛してくれることを……そして、私も迷いなく彼女を愛せたらということを、ただ願わずにはいられなかった……。