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106号車は営業終了、回送の状態で手取川堤防から少し降りた緑地公園の駐車場にいた。西村の右手が手元のSDカードを抜き売り上げ金の入った黒いポーチの内ポケットにしまいチャックを閉めた。
これでタクシーの中は完全な密室である。左肘をシートにもたれ掛け後部座席を向く。朱音の目は西村の目をじっと見て離さない。碧眼の目に引き込まれそうだ、眩暈がする。
「父親に売られたって、ユーユーランドにか?」
「うん」
「幾つん時」
「18歳の夏休み終わってからすぐ」
「マジか。何で」
大体想像は付くが、エアコンの稼働音がグググと響く。
「お父さん、パチンコ好きで。お金借りて200万円返せなくて。毎日取り立ての人が来て」
(借金で首回らないとか、ギャンブルと倒産、女遊びくらいだよな)
「あぁ、すっからかんになってパチ屋のトイレで首吊りとかあるしな」
「そうなんだ」
「そうなんすよ。で、残りが40万円か」
「うん」
ヒュルルルと音が聞こえ、暗くなり始めた夜空に真っ赤な曼珠沙華のような花が咲いた。次に腹を押さえつける音が追る。
「お、花火上がったぞ。コレ、吸いてぇし外行くわ」
西村は煙草を吹かす仕草を見せ、運転席のドアを閉めた。そしてタクシーのトランクに寄り掛かるとシワの寄ったマルボロの赤い箱をスラックスのポケットから取り出し、少し折れ曲がったそれに100円均一で買ったライターで火を付けた。遠くに上がる花火の煙たさの中で煙草を燻らせる。
中からコンコンと窓を叩く音が鳴り(ドアを開けて)と言う。西村は一瞬考えたが後部座席のドアを開け、朱音の赤い靴がアスファルトを踏んだ。
「・・・で、俺がお前の足抜けの為に40万円払うのか?」
「うん」
「何で俺に頼んだ」
「ユーユーランドの”おばあさん”が貸してくれるんじゃないかって」
(・・・・・ババ。)
「貸すって事は、返す当てはあるのか?」
次々と花火が打ち上がり、2人の影がアスファルトに浮かんでは消える。
「西村さん、デリヘルとかソープランド以外のお店、紹介して下さい」
「ガールズバーとか?」
「うん」
「そこで働いて返してくれるのか?」
「うん」
「その親父さんはどうするんだよ、稼ぎ巻き上げられるんだろ?またあのハイエースで寝泊まりするのか?」
突然、朱音の両手が西村の腕を掴み緊迫した声で彼の顔を見上げた。
「市役所に着いて来てくれませんか?」
「は?」
「”おじいちゃん”が言っていました。困った女の人が住める場所が有るって、でも1人で|あんなとこ《市役所》行った事なくて怖いんです」
「・・・あ、女性シェルターってやつね」
※自宅や生活拠点に住んでいると危険な状況にある女性が暮らす場所
「・・・・それは良いけど」
「お願いします、お願い!」
「40万円か」
これまで自分の小遣いとして貯めた内の40万円ならば日常生活に差し障りなく自由に使える。朱音には《《健全な》》馴染みの店を紹介し、そこで働けば2ヶ月、遅くても3ヶ月で40万円全額回収する事も可能だ。西村の脳裏で瞬時にその青写真を描く事は容易かった。
そして、その青写真にはタクシー送迎の定期便を提案した時と同じく、建前は繊細で憐れな|女の子《朱音》に救いの手を差し伸べたい”情”と、デリバリーヘルス嬢の|金魚《朱音》という妖しい存在への”欲”が混在していた。
一瞬、嫁の顔が目の前にチラついたが、40万円を貸すことで不特定多数の男性との本番が強要されるデリバリーヘルスの仕事から朱音を《《救い出すことが出来る》》という大義名分が西村の背中を押した。
パラパラパラと金色の枝垂れ柳が”手取川”の水面に舞い落ちる。海から駆け上がる風が葦の葉をざわざわと揺らし、ヴオンヴオンとエンジン音が低く響いた。
「《《契約》》成立だ」
「え」
「40万円は明後日、迎えに行った時に渡す。どうせ利息もあるんだろ、その分はユーユーランドが潰れるまで働け。身綺麗な奴じゃないとまともな|店《片町》は雇ってくれない。俺のメンツにも関わる」
「うん。分かった」
「|飛ぶ《逃げる》なよ、約束出来るか?」
「約束する」
西村はそこまで確認すると、朱音をタクシーのトランクに組み敷いた。
「《《契約金の前払い》》、貰いたいんだけど」
「え」
「ここでヤって良いか?」
「え」
「今、ここで朱音としたい」
西村の汗ばんだ左手が、朱音の丸く膨らんだバルーンの様な《《金魚》》の尾鰭の中を恐る恐る、そして確実にジリジリと這い上がってゆく。
「良いか?」
「・・・・・・・」
朱音がコクリと頷くと同時に、西村はその小さな唇に吸い付き貪りながら舌を差し込んだ。小さな声が上がりそしてそれは絡みつきお互いの舌を堪能し尽くす。ワンピースの上から乳首を探し求め右手がそれに到達すると摘み扱いた。
「あ・・・・」
これまで客との|仕事《性行為》で一切声を挙げる事のなかった金魚の口がパクパクと喘ぎ声を漏らす。それは切ない程に幸せに満ちていた。体温が上昇し始めた朱音からは甘ったるい飴の匂いが立ち込め、西村は若い姿態に酔い痴れながらパンティをずり下げた。
「入れて、良いか」
「ん」
左中指がズブズブと朱音の淫部に挿し込まれ、親指が突起を弄る。膣が西村の指に吸い付き離そうとしない。次に人差し指を押し込むとまるで金魚が水の中で跳ねるようにのけ反り、2本の指を繰り返し出し入れするとヌプヌプと音が垂れて段々と朱音の息遣いが荒くなった。
「あ。は、あ」
小さな喘ぎ声が漏れ西村の耳元を刺激する。カチャカチャとベルトを外す音、チャックが下された。
「あ」
「声出しても良いよ」
「む、い、いや」
「そか、脚開け」
朱音が両脚をおずおずと開く。
「もう少し、開けよ」
「ん」
「もうすこし」
「あ」
薄い淫毛の割れ目に西村がグイグイと入り、朱音のひだがそれをズブズブと受け入れてゆく。そして激しく突き上げた。
「ん!」
朱音の純真な想いとは裏腹に、西村は屋外でのセックスを1度は味わってみたいと思っていた。嫁である智に屋外プレイを頼める筈も無く、この朱音との《《契約》》は実に魅惑的なものだった。
左脚を抱え上げ、それを朱音の中に深く深く突き上げ出し入れする度にタクシーがギシギシと上下した。彼女が|金魚《デリヘル嬢》であるという先入観からか行為が普段よりも自然と激しくなり、やや粗雑に扱った。
「ん、ん。にし、西村さん、好き」
「・・・・んっ」
それでも朱音はその激しい欲望を受け入れようとタクシーのトランクで腰を支え、精一杯脚を広げた。何度も揺さぶられ突起が擦りあげられた瞬間、脊髄に何かが走った。膣壁が金魚の口のようにパクパクと蠢き、身体に咥え込んだそれを何度も締め上げた。
「あ、あか・・・ね!」
済んでの所で西村は白濁した液を朱音の内股に放出した。
暗闇に荒い息遣いが漏れる。打ち上がっていた花火はとうに終わりを告げ、辺りは静寂に満ち、何処か遠くにトラックの走り去るタイヤの音が聞こえる。今、2人は水の膜の中に居た。何方からともなく口付けを交わす。
「朱音、これで《《契約》》成立だ」
「・・・・うん」
朱音の頬は《《好きな人》》に初めて抱かれた高揚感でほんのりと赤く色付いていた。
この時、西村は北のじーさんの忠告をすっかり忘れていた。
「金魚ってのはな、雑食なんだよ。あいつら何でも喰うからな」