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その日から、涼ちゃんはずっと布団から出られなかった。
部屋の空気はどこか重く、カーテン越しの光さえも遠く感じる。
胸の奥が痛くて、体も心も言うことをきかない。
𓏸𓏸は毎朝、必ず部屋にやってきて、優しく体温計を差し出す。
「涼ちゃん、熱、測ろっか?」
涼ちゃんはなんとなく機械的にうなずいて、体温計を脇にはさむ。
ピピピッと鳴る電子音。
そっと取り出した体温計の数字は37.8℃。
前の日は38.1℃、一昨日は37.6℃――熱はなかなか下がらない。
「熱、まだ高いね……無理しないでね」と、𓏸𓏸は心配そうに眉を下げる。
涼ちゃんは返事をせず、また布団にもぐった。
お昼になると、𓏸𓏸は湯気の立つお粥を小さな器によそって部屋に持ち込む。
「少しだけでも、食べてみない?」
𓏸𓏸がスプーンですくって、涼ちゃんの口元にそっと差し出す。
涼ちゃんはしぶしぶ小さなひと口を受け入れるが、すぐに込み上げてくる吐き気を抑えきれず、顔をゆがめて咳き込み、ほとんど食べられないまま吐き戻してしまう。
「ごめん……ごめんね……」
涼ちゃんは顔を覆い、涙があふれる。
𓏸𓏸は静かに背中をさすりながら、「大丈夫。無理しないで。今はちょっと食べられなくてもいいよ」と声をかけるが、どれだけ優しい言葉をかけても、涼ちゃんの心には重い霧がかかったままだった。
夜になっても、体のだるさは抜けず、涼ちゃんはじっと天井を見つめていた。
「……いつまで、こうしてるのかな」
ぼそりとこぼした涼ちゃんの声はかすれ、𓏸𓏸には届いていないかのようだった――
それでも、𓏸𓏸は毎日変わらずそばにいて、体温を測り、お粥を運び、布団の外からそっと見守り続けた。
そんな沈黙の日々の中で、わずかでも心が揺れる瞬間を、二人はじっと待ち続けていた――