テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「𓏸𓏸ちゃん……今日、天気どうだった?」
そんなふうに、ふとした瞬間に話しかけてくれることがある。
「今日は雨だったよ」
「そっか……」
他愛のないやりとりでも、𓏸𓏸にはとても嬉しかった。
ほんの少しでも、涼ちゃんの心に光が差し込んでいる気がしたから――
しかし体調だけはなかなか戻らない。
朝、𓏸𓏸がそっと体温計を手渡すと、
「……はい」と涼ちゃんはいつものように脇に挟む。
ピピピッという電子音。
その日の体温は38.2℃。前の日は37.4℃、また別の日は38.0℃――
熱は上がったり、少し下がったり、安定しないままだった。
「熱、やっぱり高いね……」𓏸𓏸は、心配そうにぬるめのお粥を勧める。
「……ごめんね」 「ううん。大丈夫だよ。食べられそうなときでいいからね」
吐き気で食べられない日は続いたが、水だけは何とか少しずつ飲める日も出てきた。
時折、涼ちゃんは不意に𓏸𓏸の方を見て、 「……ここにいてくれる?」
そう、小さな声でつぶやいた。
𓏸𓏸は「もちろんだよ」とやさしく微笑み、ずっと手を握ってそばにいた。
嬉しさと切なさが胸を満たす。
少しだけ前に進んだ気がしても、また熱が上がるたび彼の不安は消えなかった。
ゆっくりと、でも確かに――
二人は短い会話と静かな時間を重ねていった。
まだ体はつらいまま。
けれど確かに、ほんの小さな「変化」の芽だけは部屋に生まれ始めていた。