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扉に隙間が空いた瞬間、懐かしい感覚が体全身を包むのを感じた。柔らかい、力強い、可憐で、小鳥のような、いろいろな音。混ざり合った心奪われるような音。拍が上がった。高揚した。あの頃の演奏よりももっと素晴らしい『音楽』。
「おや、お客様かい?」
演奏が止まってしまった。
「え、あ、えと、」
15年ぶりの感覚で頭がいっぱいになりいつもの作った笑顔を出せなかった。
「もしかして、ここが『そういう』パブだと知らずにきたのかい?」
「え、あ、はい。すいません。飲食店かと思って、すぐ出ます。」
演奏をもっと聴いていたい、それと同時にここにいてはいけないとも感じた。今音楽は禁止されている。ここにいては牢屋送りだ。
「ダヴィッド、誰と話しているんだ?鍵を閉めていなかったのか?」
奥から人が出てきた。マレットを持った大型の男性だ。どこが見たような懐かしさがあった。
「あぁ、すまんねぇ、『ウィリアム』。閉め忘れていたようだ。」
「え?!ウィリアム?」
思わず大きな声を出してしまった。15年前に毎日集まって木の下で音楽をしていた5人の中の1人、太鼓を担当していた少しぽっちゃりとしている男の子と名前が同じだった。
「ん?なんだあんた、俺を知っているのか?」
不思議そうな目でこちらを見てくる。もし違ったら?そう思うとなかなか口が開けない。口をもごもごさせてから私は自分の名前を明かした。
「レーネ、私レーネ、15年前にほら、大きな木の下でいつも遊んでた、覚えてる?」
ウィリアムは驚いたように目を見開いた。
「レーネなのか?!本当に?」
私は15年前以来木の下に集まってた5人に会ったことがない。あのあと大きな戦争があり住む場所を移ったためだ。私が住む地域は比較的安全だったためそのままにされていた。ただあれ以来会えていないということはみんな遠くへ逃れていたのだろうと思っていた。なのに対し、思っていたよりも近くで再会でき表情が緩んだ。そんな余韻に浸っているとウィリアムが口を開いた。
「レーネ、お前もここで演奏しないか?」
「え?」
「まだ持ってるんだろ?楽器。ここでは定期的に演奏会を開いてるんだ。1ヶ月後、このパブで18時からだ。」
確かにまだ楽器を持っている。しかし、もう15年間触っていない。なにより今は音楽は犯罪だ。
「でも、、、」
あの音楽を聞いて、心が揺らいだ。この機会にを逃せば二度と音楽に触れられなくなるだろう。
「私、音楽が好き、、、またやりたい、、、。」
ウィリアムとダヴィッドは静かに微笑んだ。