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「その晴明とやらが何処でそれを手に入れたのか知らないが。
あの式札は、そういえば、平安時代に誰かから仕入れたんだったよ。
そのうち、なにかに使えるかと思ってね」
駆け出しの陰陽師から仕入れた気がするね、とオーナーは教えてくれる。
「かなり負けてもらったよ。
当時は、すごい美女だったからね、私は」
「今は違うんですか?」
と壱花が言うと、オーナーは驚いた顔をする。
「ああいえ、いつでも美女に変化できそうだなと思って」
すると、オーナーは、にやりと笑って言った。
「この顔を美女だと言ったのかと思ったよ。
確かに、いつでも戻れるさ。
あくまでも、変化にすぎないけどね」
今の私はただの老婆さ、と言う。
「でもまあ、駄菓子屋の店主だと、この顔と年齢の方が安心感あるだろ」
確かに駄菓子屋のおばあちゃんって感じかな、と思う。
駄菓子屋のおばあちゃんは、やさしいニコニコしたおばあちゃんもいれば。
子どもたちを叱ってくれる厳しいおばあちゃんもいる。
どちらのおばあちゃんでも、大人になって久しぶりに訪れて、昔通り営業してくれていたら。
嬉しくて泣いてしまいそうだ。
「自分で、すごい美女とか。
謙遜はないのか」
と言いながら、倫太郎は個包装してある小粒な飴の入った袋を買おうとする。
「それ好きなんですか? 社長」
と壱花が訊くと、
「いや、うちにこのサイズの飴はないから」
と言う。
「昼間、ちっちゃいお前にデスクの上にあった飴全部食べられたしな」
と言われ、すみませんっ、買いますっ、と言ったが、
「お前が買う必要ないだろ。
ちっちゃいお前とお前、関係ないし。
いや、まあ、お前が出現させたんだが……」
と言いながら、倫太郎は金を払っていた。
「帰るとき、ちっちゃいお前もヒトガタ箒もまだ残って、二人で駆け回ってたからな。
もしかして、明日もいるかもしれないだろ」
どうやら、ちっちゃい壱花にあげるつもりで、小さな飴を買ってくれたらしい。
「ありがとうございますっ。
でもそれ、私が買いますよ」
「いいから、高尾に土産でも買ってやれ」
……そうだな。
オーナーがくれた飴もあるけど。
高尾さん、誰かにお土産選んでもらうのが好きみたいだったからな。
壱花は高尾に、吹くとピーッと鳴って先が伸びる吹き戻しのついた煎餅を、みんなには砂糖をまぶした丸い小さなカステラを選ぶ。
払おうとしたが、倫太郎が壱花の手を押さえ、先に払ってしまった。
「それだと私がお土産買ったことになりません」
「じゃあ、この代金分、お前に出張費をやったことにするよ。
それで精算したってことでいいだろ」
ほら、と倫太郎に釣りを渡したあとでオーナーが、
「また買いに来な」
と言う。
「そうそう。
お前、さっき私が謙遜してないと言ったが。
謙遜ならしてるよ。
すごい美女って言ったろ」
実際は『ものすごい美女』だ――。
そうニヤリと笑ったあとで、オーナーは壱花を見て言った。
「この小娘にも負けず劣らずのね」
駄菓子を手に、頭の上をムササビだか、あやかし野衾だかわからないものが飛ぶ竹林を通って帰る。
「……ばあさんのお前の評価、意外に高いな。
俺的にはお前は、世間的に言う、『すごい美女』のちょい下くらいなんだが」
あれ?
意外に高いですね、社長の中の私の評価、と壱花は思ったのだが。
倫太郎にとっては、ただ、この野菜の出来はまあまあ、くらいの感じだったらしく。
照れるでもなく、ただ淡々と語っていた。
どっちにしろ、俺には関係ないとでも言うように。
……なんだろう、あまり嬉しくない、と思いながら、あやかし駄菓子屋に戻った。