「ただいま帰りましたー」
と壱花たちがあやかし駄菓子屋に帰ると、冨樫と高尾が真面目にレジで商品を売ったり、茶色い紙袋に詰めたりしながら話していた。
おや、珍しい。
高尾さんが茶化さずに話しているとは、と思いながら、壱花はその様子を眺めていた。
倫太郎もそう思ったらしく、足を止め、声をかけずに二人を見つめている。
「そりゃ、そういう服装や背格好の人なんて、結構いるじゃん」
「そうなんですけどね。
なんだか気になったんですよ」
そう言った冨樫が気がつき、こちらを見て言った。
「社長、おかえりなさい」
いや、私は? と思いながら、壱花は二人にお土産を渡す。
「カステラはみんなで食べてください。
これはオーナーから店番をしているお二人に。
こっちは私から高尾さんへのお土産だったんですけど。
結局、カステラもこれも社長がお金出してくれたんです」
「ありがとう、二人ともっ。
とオーナー!」
と高尾は喜び、
「ありがとうございます」
と冨樫は倫太郎に頭を下げた。
高尾は壱花が買った吹き戻しを面白がって吹き鳴らし、
「壱花ちゃんって感じのお土産だねえ」
と笑う。
その横で、冨樫とともに、子狐や子狸たち、そして、来ていた客たちにカステラを配りながら壱花は訊いた。
「あの、どうかしたんですか?」
そもそも、この店に来たときから様子がおかしかったよな。
会社を出るときはそうでもなかったみたいなのに。
なにも言わないかと思ったが、冨樫は子狸たちに渡す前に、指に持っている状態で、すでに、ぱくり、と食いつかれながら、壱花に言った。
「実はここに来る前に、テレビで流れていた防犯カメラの映像を見たんだ」
「防犯カメラ?」
「……昼間あった銀行強盗のニュースの映像だ。
そこに映っていた強盗の一人が」
そこで、冨樫は一度言葉を止めた。
「うちの消えた方の父親によく似ていたんだ」
「えっ?
でも、お父さんって、刑事さんですよね?」
待て、と聞こえていたらしい倫太郎が言う。
「そもそも、防犯カメラの映像ってよく見えないじゃないか」
「そうなんですが。
背格好だけじゃなく、服装も消えたときのものに似ている気がして」
それで最後に父親を見たとおぼしき高尾に確認していたのだと言う。
だが、その高尾は、うーん、と唸っている。
「そう言われても、僕、冨樫のお父さんの顔しか覚えてないんだよねえ。
人間の服装になんて興味ないからねえ」
「でも、高尾さん、いつもセンスいい服着てますよね?」
若き日の冨樫の父親の姿を模している高尾をマジマジと眺めながら壱花は言う。
「ああこれね。
いつも街を歩いてて、いいなと思うショーウィンドーの服を自分に投影してるだけ」
なんとうらやましいっ、と今、そんな場合ではないのに、壱花は思ってしまった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!