実家に着くと相変わらず母の準備が整っていなかった。
駐車スペースに車を駐めて運転席でスマホをチェックすると昨夜送ったメッセージに返信が来ていた。
『ごめん、今気がつきました。私も楽しかったです』
昨日は結構無理をさせてしまったから、身体は大丈夫だろうか。
『ゆっくり休めたようなのでよかった』
すぐにありがとうと書かれた熊のスタンプが帰ってきた。
ふっと顔が緩むのがわかる。
カチリ
「賢一、なんだか楽しそうね」
ようやく準備が整った母が後部座席に乗り込んできた。
「待ちくたびれましたよ」
「悪いね賢一、新二は?」
父も乗り込んだのを確認すると出発した。
「新二はデート、試験も終わって卒業まで日があるから楽しむんだそうだ」
父はため息をついてから
「今まで学生という立場で随分と楽しんでいたじゃないか、4月から社会人なんだから大丈夫か」
「4月から社会人になるから遊んでいるんじゃないですか、でも新二はぜんぜん彼女を家に連れてきてくれないのよね。彩香ちゃんはよく遊びに来てくれるのに」
「新二も会社に入れば自覚も出るんじゃないのか、俺はいきなり台湾だったからな。いい勉強になったけど」
「新二の彼女さんってどんな子?賢一は知っているんでしょ?」
「悪いけど、この車は普段乗り慣れていないから運転に集中するから、話をするなら二人でして」
たしかに、普段はこっちの車は乗らないが、集中しないと運転出来ないわけでは無い、ただ母の追求にいちいち答えるのが面倒になった。
後部座席ではマシンガンのように話し続ける母親に父は適当に返事をして流していた。
東名高速道路はほどよく流れていて気持ちよく走ることが出来た。
母もすっかり熟睡モードで、父親もゆったりとシートにもたれている。母をうるさそうにしていながらも父は母を大切にしているように思う。
母からは父親からの熱烈なプロポーズの話を何度も聞かされ惚気られるほど二人の中はいまだに良好なんだろう。