テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#切ない
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「え、俺?」
「そう!竜牙さんなら完璧にそれ満たしてるのになー」
ハハッ、と冗談めかして言った、その瞬間。
ぴたり、と店の空気が止まったような気がした。
竜牙さんの、カクテルピンを動かしていた大きな手が止まる。
俺はあくまで「いつもの冗談」という風を装って
顔にへらへらとした笑みを貼り付けたままだった。
だけど、胸の奥の心臓だけは、肉壁を突き破らんばかりの勢いでうるさく警鐘を鳴らしている。
(……言っちゃった)
いや、もう最近の俺はずっとこんな感じだ。
店に入ってきた瞬間から、無意識にあの広い背中を目で追って。
用もないのに、週に何度もこうして会いに来て。
竜牙さんが他の客────特に女性客や
綺麗な男の客と親しげに話しているだけで、胸の奥がどろどろとモヤつく。
完全に終わってる。
認めざるを得ない。
これはただの相談相手に対する親愛じゃない。
恋だ。
それも、引き返せないレベルの。
「……俺?」
数秒の沈黙の後、竜牙さんは信じられないものを見るような目で、ぽつりと呟いた。
それから、すぐにいつもの苦笑いを浮かべる。
「ないない。あり得ねぇよ」
「なんでさ」
「なんでって……こんなゴツくて可愛げのない男の、どこがいいんだよ」
「え、全部に決まってんじゃん」
一秒の躊躇もなく即答すると、竜牙さんが少しだけ驚いたように目を見開いた。
「優しいし、顔も体格も普通にかっこいいし、声はめちゃくちゃいいし、気遣いできるし、おつまみ頼んでも料理激ウマだし、包容力の塊だし」
「おい、褒めすぎだ。からかうな」
「からかってないよ!あと、なんだかんだ言って、俺にめちゃくちゃ甘いし!」
「……それは、お前が危なっかしくて放っておけないからだろ」
ずるい。
本当に、そういう無自覚なところがずるい。
俺を子供扱いして、特別扱いして
そうやって懐に踏み込ませておいて「ないない」なんて、今更逃げられると思ったら大間違いだ。
俺はたまらなくなって、座っていたスツールから、カウンター越しにぐっと身を乗り出した。
距離が近くなる。薄暗い照明の中で、竜牙さんの綺麗な瞳が俺を映しているのが分かった。
「じゃあさ、付き合ってよ」
「は?」
「俺、竜牙さんのことが好きなの」
「…………」
落とされた爆弾の威力に、今度こそ完全な沈黙が訪れた。
ジャズのサックスの音だけが、やけに鮮明に店内に流れる。
竜牙さんは、困ったみたいにハの字に眉を下げて、大きな手で自分の後頭部をガシガシと掻いた。
「慧斗…それどういう意味で」
「本気だよ。冗談でこんなこと言わない」
「いや、でもな……」
「俺じゃ嫌?恋愛対象として無理?」
「そういうわけじゃ、けど……」
「じゃあ何がダメなの?」
畳みかけるように問い詰めると
いつも余裕たっぷりで、大人の男の代表格みたいな竜牙さんが、ふいっと気まずそうに視線を逸らした。
珍しい。
こんな姿、初めて見た。
「……お前みたいな容姿なら、もっと選び放題だろ」
「はぁ?」
「…俺みたいなむさ苦しいのより、もっと同年代の、細くて綺麗なやつとか、それこそお前を姫みたいに扱ってくれるやつの方が……」
そこまで一気に捲し立てた竜牙さんを見て、俺は数秒間、完全にフリーズした。
それから────