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第1話 『 春、君だけがいない 』𓂃 ‧₊˚. ⸝⸝
春の匂いが、少しだけ苦手になった。
病院の白い天井を見上げながら、etは自分の指先をぎゅっと握る。
yan「……et?」
その声に、胸が跳ねる。
yanくん。
包帯の巻かれた額。少し掠れた声。
生きてる。ちゃんと、ここにいる。
それだけで良かったはずなのに。
yan「ごめん、俺……」
yanくんは困ったように笑った。
yan「クラスメイト、だよな?」
一瞬、時間が止まる。
医者の言葉が蘇る。
——部分的記憶障害。
——特定の人物だけが抜け落ちている可能性。
私だけ。
yanくんの世界から、私だけが消えていた。
それでも。
それでも泣いちゃだめだ。
私は、ゆっくり笑った。
et「うん。クラスメイト。」
本当は違う。
クラスメイトなんかじゃない。
隣の席で、
放課後も一緒に帰って、
手を繋いで、
未来の話をして。
“好きだよ”って、ちゃんと聞いた。
でも。
yanは首を傾げる。
yan「なんかさ、etといると、落ち着く。」
心臓が、壊れそうになる。
et「……そうなんだ。」
yan「初めて話す気がしない。」
やめて。
期待しちゃうから。
私は立ち上がる。
et「じゃあ、また学校でね。」
背を向けた瞬間、涙が落ちた。
春なのに。
桜が咲いているのに。
私たちの空間だけ、まだ冬だった。
——でも。
もう一度好きになってもらいたい、なんて思わない。いや思っちゃいけない。
今のyanくんにとって、私はただの“空白”だ。
無理に思い出させるのは、きっと苦しい。
だから。
友達でいい。
クラスメイトでいい。
隣にいられるだけでいい。
負担になりたくない。
yanくんが笑っていられるなら、
それでいい。
そう決めたのに。
廊下の角を曲がった瞬間、
声が震えた。
et「……なんで、私だけ忘れるの。」
春は、やっぱり少しだけ冷たかった。
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