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──用意を整えて玄関へ行くと、既に三日月が待っていた。
ブルーグレーのロングタキシードに身を包み、胸元には純白のチーフを挿し、細いチェーンの付いたラベルピンを飾った出で立ちのあまりのかっこよさに、呆然と立ちすくむ。
「三日月…だよね?」
そう聞かずにはいられない程、彼の姿は優美で麗しく見えた。
「はい」
と、一言を三日月が返す。
もの静かで落ち着いた声音は、確かに三日月のものに違いはなかった。
「すごい…かっこいいんだけど……」
思わず感嘆の声を漏らすと、
「そうですか、ありがとうございます」
彼は薄く微笑んで、次にこう切り出した。
「理沙様、今夜の舞踏会では、私はあなたのパートナーとして過ごさせていただきます。
今宵ひとときは、主従であることを忘れて、過ごすことができればと思っております」
うやうやしく下げられた頭に、やっぱり彼はこうした場になろうと執事でしかないことに一瞬落胆をしかけたものの、
夜会の場をうまく乗り切るためには、それが得策にも感じられて、「わかった……」と、その言葉を受け入れた──。
舞踏会の会場へ着くと、私は目元を隠す羽飾りのあしらわれた仮面をかぶった。
一方の三日月は、顔の半分を覆う銀のマスクを着けていた。
マスクからのぞく瞳が涼しげで、普段とは少し違うような彼の雰囲気に胸がドキリと高鳴るのを覚える。
「理沙…では、行きましょうか?」
「えっ…?」
急にそんな風に呼ばれて、びっくりしていると、
「今日は、私はあなたのパートナーですので、こう呼ばせていただきますので、どうかご容赦くださいますよう」
声をひそめた三日月に、耳打ちでそう告げられ、
「あ…うん…」
彼の振る舞いには、いちいち驚かされるようで、つい及び腰になってしまっている自分を感じた。