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「……ったく、すぐ手が出る女だな。そうだ、香津美は和菓子は好きか?」
「ええ、実家に住んでいたころはよく食べていたわ。どうして?」
私の両親はどちらかというと日本の文化を好んでいて、食事も和食中心だった。だから私も日本食の方が好みで……
「テナントの中には有名な高級和菓子店があって、香津美に似合いそうな和菓子があるから見て欲しいんだ」
「え、私に似合う和菓子……?」
ドキドキしながら連れて来られた和菓子屋は、そんなに大きい店舗ではないのに趣があって高級感の感じられるお店。さすがセレブ達の集まる【ヒルズビレッジ】内にあるお店なだけあるわ。
「若旦那、先日頼んだものは出来ているか?」
「これは狭山様、ご注文いただきました商品ならば職人が張り切って作りました。今お持ちします」
もしかして聖壱さんはこの店の常連だったりするのかしら? 意外と甘いものが好きなのかしらね、今度甘味処にでも誘ってみようかしら?
でも、私は二人の会話で一つだけ気になったことがあって。
「え?……注文? さっき聖壱さんは私に似合いそうな和菓子を見つけたって」
「奥様、狭山様は私たちに「明るく華やかな、自分の妻になる女性をイメージした和菓子作って欲しい」と。それはもう奥様をべた褒めでして、私達も気合を入れて作らせていただきました」
え、それってどういう事? 「自分の妻になる女性」という言葉から考えると、聖壱さんが私に「冷たくこの結婚は【契約婚】だ」と言っていたころの話ってこと?
「若旦那は余計な事を話してないで、早く取って来い!」
何故か焦った様子の聖壱さん。私がチラリと彼を見ると、心なしか頬が赤い。まさか……そんな事私の思い違いよね?
もしかして本当は最初から私の事を気にかけてくれていたのかも、なんて。
「こちらが狭山様からご注文いただいた商品になります」
若旦那と呼ばれていた男性が、奥から持ってきたのは手のひら大の白い箱で……
「綺麗……こんな綺麗な和菓子初めてみたわ」
箱に入っていたのはカラフルな花束の形をした和菓子で、それはとてもとても華やかだったの。まさかこんな美しいものが、私をイメージしたものだって言うの?
「どうだ、気に入ったか? 香津美」
「聖壱さん、貴方は私の事をどんなふうに伝えたのよ? いくら何でも……これは綺麗すぎる」
こんなイメージを持たれているのかと恥ずかしくなって俯けば、聖壱さんを喜ばせるだけで。
それでもサプライズをされた事は素直に嬉しい、だけど照れくさくて何度も聖壱さんの背中を叩いてしまった。そんな私の可愛くない行動を、聖壱さんは「香津美は照れ屋な妻だ」と笑っていたけれど。
箱を大事に抱えて他の店も見て回る。宝石店によれば聖壱さんが勝手に商品を見せて貰い始めて……
「これが、香津美には似合いそうだ! いや、こっちの商品も悪くない」
なんて勝手に買ってしまいそうになるし。この人はちゃんと金額を見ているのかしらって不安になるわ。
でも彼が買おうとするのは、いつも私のための物ばかりで。
「どうして?」
「香津美にはいつも俺がプレゼントしたものを、その身に着けていて欲しいんだ」
なんて、そんな事を言われて赤くならない女がいるかしら? 聖壱さんは私に対する愛情も、そして独占欲も少しも隠そうとはしない。
「この商品、色違いってあります?」
質の良いオリジナルの小物や雑貨を取り扱うお店で、ちょっと気になるカップを見つけた私。出来れば色違いの物も欲しくて近くにいた若い店員さんに声をかける。
「はい、どの商品ですか?」
「これ、なんですけど。出来ればもう少し……そう、落ち着いた感じで」
店員さんが奥に商品を探しに行くと、聖壱さんが私の腕を掴んで店から連れ出してしまう。どういうことか分からず私は目を丸くするばかりで……
「ちょっと、聖壱さん⁉ 私まだ、あの店員さんが来るのを待ってるのよ?」
「ダメだ! あの店員は香津美に色目を使っている!」
何を怒っているのかと思えば、そんな事? いくらなんでも、ヤキモチ妬きにもほどがあるわ。
「貴方は私の夫でしょ? ちょっと話したくらいでそんなに嫉妬されたら、落ち着いて買い物も出来ないわよ! 大体……」
「だいたい?」
「あのお店で店員さんに頼んだのは、貴方と使うためのお揃いのカップだったのに……」
二人がお揃いで使えるものが欲しかったのに、それを駄目にされたんだもの。ちょっと拗ねてしまうわ。
そんな私の言葉を聞いて、聖壱さんはちょっと申し訳なさそうな表情で……
「さっきのは俺が悪かったしそれに香津美の気持ちも嬉しい。じゃあ、もう一度さっきの店に戻ろう」
素直に謝ってくれた聖壱さんと二人でお店に戻る。無事お揃いのカップを買う事が出来たことが少し嬉しかったのは、彼にはまだ内緒にしておくけれど。