コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
聖壱さんは言いにくいのか、少し柔らかそうな髪をクシャッと掻き回した。あーあ、そんな事をしちゃったら……
「もう、髪がボサボサよ? 直してあげるからこっち向いて?」
そう言って聖壱さんの頭に触れようとすると、彼は凄い勢いで後ろへと下がった。何が起こったのかと思って聖壱さんを見ると、彼は顔を真っ赤にしていて……
もしかして女性に慣れてない? いいえ、さっきまでべたべたと私に触れていたからそんなはずはない。
……じゃあ、いったいどうして?
「もしかして、私から聖壱さんに触れるのは駄目なの?」
「……悪いか?」
別に悪くはないわよ、ちょっと驚いただけで。いつも余裕綽々な顔をしていそうな聖壱さんのそんな顔を見れたのも楽しかったしね。
「そうね、ちょっとだけ聖壱さんを可愛いと思ったわ」
「香津美はそういう事、遠慮なく言うよな。俺が可愛いと言われて喜ぶわけないって分かってるくせに」
ふふふ、悔しそうな顔。聖壱さんはそういう顔も悪くないと思うわよ?
結婚してすぐに「好きになった」なんて聖壱さんは言っていたけれど、貴方は本当に性悪な私を丸ごと愛せるかしらね?
聖壱さんと二人で朝食の後片付けを終えると、出かける準備をしてから【ヒルズビレッジ】内にあるショッピングモールへ。
歩いて向かっている途中、そっと彼の腕に手を伸ばしてみたの。聖壱さんをちょっと揶揄おうかと思っただけよ。
だけど簡単に見破られて、私の手は彼の手に捕まってしまって……
恋人のように指を絡めた繋ぎ方に、緊張で汗をかいてしまいそうになる。
「香津美は初心者だから、こっちから。もっと慣れたら腕を組ませてやるよ」
ニヤリと笑った顔が憎らしいわ。だけどこうして手を繋いでいるだけでも、心臓がビックリするくらいドキドキもしてる。
「こんなの初心者レベルでしょ、別に何ともないわよ」
強がってみせると、聖壱さんにもっと笑われる。あまりに腹が立ったから、つま先で脛を蹴ってやったわ。
「……ったく、すぐ手が出る女だな。そうだ、香津美は和菓子は好きか?」
「ええ、実家に住んでいたころはよく食べていたわ。どうして?」
私の両親はどちらかというと日本の文化を好んでいて、食事も和食中心だった。だから私も日本食の方が好みで……
「テナントの中には有名な高級和菓子店があって、香津美に似合いそうな和菓子があるから見て欲しいんだ」
「え、私に似合う和菓子……?」
ドキドキしながら連れて来られた和菓子屋は、そんなに大きい店舗ではないのに趣があって高級感の感じられるお店。さすがセレブ達の集まる【ヒルズビレッジ】内にあるお店なだけあるわ。
「若旦那、先日頼んだものは出来ているか?」
「これは狭山様、ご注文いただきました商品ならば職人が張り切って作りました。今お持ちします」
もしかして聖壱さんはこの店の常連だったりするのかしら?意外と甘いものが好きなのかしらね、今度甘味処にでも誘ってみようかしら?
でも、私は2人の会話で一つだけ気になったことがあって。
「え?……注文? さっき聖壱さんは私に似合いそうな和菓子を見つけたって」
「奥様、狭山様は私たちに「明るく華やかな、自分の妻になる女性をイメージした和菓子作って欲しい」と。それはもう奥様をべた褒めでして、私達も気合を入れて作らせていただきました」
え、それってどういう事? 「自分の妻になる女性」という言葉から考えると、聖壱さんが私に「冷たくこの結婚は【契約婚】だ」と言っていたころの話ってこと?
「若旦那は余計な事を話してないで、早く取って来い!」
何故か焦った様子の聖壱さん。私がチラリと彼を見ると、心なしか頬が赤い。まさか……そんな事私の思い違いよね?
もしかして本当は最初から私の事を気にかけてくれていたのかも、なんて。