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――ジューッ、パチパチ!!
キッチンに香ばしすぎる匂いが立ち上る。 慌てて彼女の手をほどいて火を止めたが、お皿の上に乗ったのは、縁が焦げ付いた、理想とは程遠い目玉焼きだった。
「……あーあ。また、焦げた……」
僕はがっくりと肩を落とした。完璧な朝食で新生活を始めたかったのに。けれど、背中越しに聞こえる「ふふっ」という彼女の楽しそうな笑い声に、怒る気なんておきなかった。
「まだ食べられるから大丈夫。ほら、お口開けて?」
まだテーブルも届いていない部屋で、段ボールを食卓代わりにして向かい合う。彼女はフォークで焦げた白身を器用に切り分けると、僕の口元まで運んできた。
「はい、あーん」
「……っ」
(子供じゃないんだぞ)
照れ隠しに顔を背けようとしたが、期待に満ちた彼女の瞳に抗えず、僕は諦めて口を開いた。
パリッとした焦げ目の香ばしさと、少しだけ残っていた黄身の濃厚な甘みが口の中に広がる。
「……どう?美味しい?」
「……まあ、悪くはないです」
「私は、陽一さんの作ったものならなんでも美味しいと思う」
その、あまりにも真っ直ぐで無防備な肯定に、心臓がドクンと跳ねた。
頬の火照りを、朝の冷気が少しでも冷やしてくれればいいのに――。
「……次は、もっとちゃんと焼きます。焦げてない、完璧なやつを」
「ふふっ、楽しみにしてるね」
白石さんは自分の分の目玉焼きを口に運ぶと、眩しそうに外を眺めた。
「パパたちに隠れて、私の部屋で同棲してた時も楽しかったけど……。こうやって、新しい家で、目玉焼きを二人で笑って食べられるの、なんか不思議で……すごく、幸せ」
焦げた目玉焼きを分け合いながら、二人の笑い声が響く。
完璧な朝食ではなかったけれど、これまでの人生で食べたどんな料理よりも、それは温かくて幸せな味がした。
篠原愛紀
#独占欲