テラーノベル
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篠原愛紀
#独占欲
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俺(王子谷)は相変わらず、読み上げられることのない言葉を心の奥底に抱え込んだまま、ここ数か月、ただひたすらがむしゃらに働いていた。
そうしていれば、雨宮主任にとっての「最高の部下」でいられる。そう信じていた。
主任とは、その後、何度か食事に行く機会があった。彼女は時折、意外なプライベートを打ち開けてくれた。
「実はね、このキャラの限定シールを集めてるの」と、スマホの裏に貼られたファンシーなキラキラシールを少し照れくさそうに見せてくれたり、ぬいぐるみに囲まれないと眠れないことを打ち明けたり。
そんな「上司ではない一人の女性」の顔を見せてくれるたび、俺の心臓はうるさいほど跳ねた。自分だけが彼女の『余白』を共有しているような、甘い錯覚。
けれど、俺がその隙間に指をかけようとすると、彼女は決まって絶妙なタイミングで境界線を引く。
「今度の休み、そのキャラのイベントがあるみたいで、もしよければ一緒に――」 「あ、ごめんなさい。休日は息子の世話があるから、空けられないの」
柔らかな微笑み。けれど、それは決して踏み込ませない境界線だった。手を伸ばせば届きそうなのに、近づくほどに遠ざかる。彼女は俺にとって、あまりに美しく、あまりに残酷な「逃げ水」だったのだ。