テラーノベル
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眩しい、遠い、砂漠の陽
その背に伸ばした俺の手は
ただ無情にも空を切る
けれど、あの日、あの瞬間
見上げるばかりのあんたの目
醜い嘘の色を見た
なんだ、なんだ、あなただって
私と同じじゃないですか
☆
巡るカレンダーの2周目で、天涯孤独になった。
俺の誕生月のカレンダーを、両親と一緒に見ることができたのは、僅か2回だった。
事故。それは果たして本当だろうか?
疑う余地もなく信じ込んでしまう、幼子だった頃の俺ならともかく。今の私には、それが嘘であるような気がしてならない。
私の家系は、他と少し違っていたらしい。
母の血を継いで、私は”占い師”の力を持っていた。
未来を見れるだなんて大層な力ではない。ただ、ゆっくり相手を見つめている時、相手の持つ”役職”を微かに予感する。そんな、使い物になるかもわからない力だった。
―――使い物にならないという評価は、些か早計だったらしい。
それが真価を発揮するのは、日常からかけ離れた、遠い戦場なのだ。
愛情を求めていた。本性すらも文字に表してしまうなら、渇望していた。
孤児院は決して悪くなかった。けれど、街を歩く度、公共施設に足を踏み入れる度、法的手続きをする度、血の繋がった家族はもう居ないのだと突きつけられる孤独感を、あの頃の小さな身体では受け止めきれなかった。
だから宣った。「愛するから、愛して」。
誰でもいい。
想像とお伽噺だけで補った、少し歪な愛。心臓に積もったそれを、見境なく振り撒いて、いつだって見返りを求めていた。
純愛者。誰にだって一目惚れする俺を、皆はそう呼んだ。
純愛者。閉鎖空間、限界状況で、不意に恋に落ちてしまったニュートラル。想う人と結ばれて、ただ生き残ることを夢見る役職。いや、種族。
クルーとすら認められなかった。けれどそれでよかった。
愛して。
騙されないで。
振り向いて。
こんなもの見ないで。
醜く不特定多数に愛を乞う俺にとって、純愛者と認知され、ひとびとが離れていくのは都合が良かった。
孤独感は埋まらない。けれど少なくとも、俺に振り回されて泣くひともいない。
泣いてほしくない。俺のせいで迷惑をかけたくない。その感情は紛れもない愛だ、と、少なくとも私は思うのだ。
不特定多数を愛した代償だった。
☆
その出会いだって、突然だった。
よく喋り、よく笑い、誰よりも輝く彼を、じっと見つめていた。それは憧憬と羨望を含み、邪な意図は――自認の上では――爪の先ほどもない眼差しだった。
じゃっかる、
っ
「君、僕のこと、知ってるよね……」
打ち付けられた壁の硬さを初めて知った。低く静かな声が耳を這う、別人と疑うほどに冷たい熱が俺を映して、恐怖は脳裏を蝕んだ。
「ぁ……」
認識するまでもなく息が荒む。覗き込む死の予兆が頭を茫然と鈍らせて、視界の霞がひとつぶずつ落ちてゆく。震えるままに座り込んだら、彼の顔が、随分上の方にあった。
「ころ、さ、な……っ、ぅ」
「……安心して。こっちもそのつもりはないし、君が公言しない限り、君に害を与えることはない」
「……あ、ぁ゛……!」
なんて、なんてものを手に入れてしまったのだろう。
つまるところこれからは、全てが彼の監視下になるのだ。太陽の真実。掴んだ鍵は俺の背筋を撫でて、ぞわりと凍りつく、暖かに首を絞められる。
最高以外の何物でも無い。
全世界を探したって、俺しか知らないだろう。正義の象徴の弱み。愛され、讃えられ、崇められている彼。その胸を撃ち抜く権利を、ただ俺ひとりだけが持っている。
迫り上がる多幸感は血の味がした。
「…………ふ、……ふ、ふふ……」
「……怖。何の意図の笑い?」
「委員長、さん」
「なーに」
「仲良くしましょう、か」
遥か空を切った手の中に。遠い遠い彗星が。
例えそれが残滓だろうと。遠い遠い彗星が。
遥か空を切った手の中に、俺の思うままに!
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