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夜でも明るい街を歩いて、壱花たちは、ちょっと離れたスーパーで穴あきお玉を買った。
「ちょっと寄るとこあるんですけど、いいですか?」
と壱花が言うと、冨樫は、わかっていたように、ああ、と言う。
壱花はあのビル街のお稲荷さんを覗いた。
狭く暗い境内に、屋台のような小さな駄菓子屋。
提灯の灯りの中、そろばんを弾いていたオーナーのおばあさんは顔を上げないまま、壱花に訊く。
「店はどうした?」
「斑目さんと社長がやってます」
そうかい、と言うおばあさんに、
「今日はどうもありがとうございました。
助かりました」
と壱花が頭を下げると、冨樫も一緒に頭を下げた。
あの、と身を乗り出し、壱花は訊く。
「すみません。
今日、閉店時間を少し早めてもらえないでしょうか。
あちらに早く戻りたいんです」
スタッフが大浴場の点検をはじめる前に戻れれば、なにも問題ないはずだ、と思い、壱花はそう訊いてみた。
がめついオーナーは聞いてはくれないだろうと思っていたのだが、そろばんを弾く手を止めたオーナーは顔を上げ、
「まあ、いいだろう」
と言う。
えっ? と壱花と冨樫は身を乗り出した。
「あの臨時店長のおかげで、今日は殊の外よく売れたからね」
「そうなんですか?」
「ああ、ビールが足らなくなって、途中で仕入れていたようだよ」
すごいな、斑目さん……。
生活に疲れたサラリーマンの人たちが、牡蠣の匂いにつられて、ビール買ったんだろうな……。
出る前に見た、ビールを手にして、牡蠣が焼けるのを待つ人々の列を思い出す。
自分たちがいない間も、斑目と生活に疲れた(?)斑目の部下は、せっせと牡蠣を焼いてくれていたようだった。
店に戻った壱花はレジ横に貼られた仕入れのメモ書きを見た。
そういえば、自分たちが書いたのではないメモが増えている。
斑目はレジに貼っていた仕入先の番号に電話をかけて、ビールを運ばせたようだった。
すごいな、さすが斑目さん。
「どうした、壱花」
と倫太郎に訊かれ、壱花はオーナーと話した内容を伝える。
倫太郎は無事に女湯から脱出できるかも、ということよりも、斑目が自分より売り上げたことの方が気になったようだった。
「斑目さんに四号店を任せてもいいね、とオーナーはおっしゃってました」
と言いながら、壱花は思っていた。
……何故、突然、四号店。
三号店は何処に……?
だが、それを聞いた斑目は言う。
「いや、俺は仕事が忙しい。
まあ、愛する壱花と店ができるのなら、やらないでもないが」
すると、倫太郎がむっとしたように、
「ひとりでずいぶん売り上げたんだろ?
だったら、お前ひとりでやれよ」
と言い出した。
「そうだな。
俺はひとりでもやれるが。
お前は壱花がいないと、なにもできない半人前のようだからな」
「なんだとっ?
ちょっと臨時で店長やったくらいで偉そうにっ」
いやあの、社長。
斑目さんは我々のためにやってくださったんですが……。
「俺は子どもの頃から、この店やってんだぞっ」
それで売上負けてちゃ駄目だと思いますね……。
「見てろよ、斑目っ。
俺はここを日本一の駄菓子屋にしてみせるからなっ」
そーかそーか、とどうでもよさそうに斑目は牡蠣を焼き、
「いやあの、店長を極めてどうするんですか。
本業の方を極めてください……」
と冨樫が力なく言っていた。
社長……。
なんだかんだで、オーナーにいいように操られてますよね。
そう思いながら、壱花は斑目が焼いてくれた牡蠣でまた呑みはじめる。
いつ飛んでもいいように、穴あきお玉を膝に抱えて。