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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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夜でも明るい街を歩いて、壱花たちは、ちょっと離れたスーパーで穴あきお玉を買った。


「ちょっと寄るとこあるんですけど、いいですか?」

と壱花が言うと、冨樫は、わかっていたように、ああ、と言う。


壱花はあのビル街のお稲荷さんを覗いた。


狭く暗い境内に、屋台のような小さな駄菓子屋。


提灯の灯りの中、そろばんを弾いていたオーナーのおばあさんは顔を上げないまま、壱花に訊く。


「店はどうした?」

「斑目さんと社長がやってます」


そうかい、と言うおばあさんに、


「今日はどうもありがとうございました。

助かりました」

と壱花が頭を下げると、冨樫も一緒に頭を下げた。


あの、と身を乗り出し、壱花は訊く。


「すみません。

今日、閉店時間を少し早めてもらえないでしょうか。


あちらに早く戻りたいんです」


スタッフが大浴場の点検をはじめる前に戻れれば、なにも問題ないはずだ、と思い、壱花はそう訊いてみた。


がめついオーナーは聞いてはくれないだろうと思っていたのだが、そろばんを弾く手を止めたオーナーは顔を上げ、


「まあ、いいだろう」

と言う。


えっ? と壱花と冨樫は身を乗り出した。


「あの臨時店長のおかげで、今日はことほかよく売れたからね」

「そうなんですか?」


「ああ、ビールが足らなくなって、途中で仕入れていたようだよ」


すごいな、斑目さん……。


生活に疲れたサラリーマンの人たちが、牡蠣の匂いにつられて、ビール買ったんだろうな……。


出る前に見た、ビールを手にして、牡蠣が焼けるのを待つ人々の列を思い出す。


自分たちがいない間も、斑目と生活に疲れた(?)斑目の部下は、せっせと牡蠣を焼いてくれていたようだった。




店に戻った壱花はレジ横に貼られた仕入れのメモ書きを見た。


そういえば、自分たちが書いたのではないメモが増えている。


斑目はレジに貼っていた仕入先の番号に電話をかけて、ビールを運ばせたようだった。


すごいな、さすが斑目さん。


「どうした、壱花」

と倫太郎に訊かれ、壱花はオーナーと話した内容を伝える。


倫太郎は無事に女湯から脱出できるかも、ということよりも、斑目が自分より売り上げたことの方が気になったようだった。


「斑目さんに四号店を任せてもいいね、とオーナーはおっしゃってました」

と言いながら、壱花は思っていた。


……何故、突然、四号店。


三号店は何処に……?


だが、それを聞いた斑目は言う。


「いや、俺は仕事が忙しい。

まあ、愛する壱花と店ができるのなら、やらないでもないが」


すると、倫太郎がむっとしたように、


「ひとりでずいぶん売り上げたんだろ?

だったら、お前ひとりでやれよ」

と言い出した。


「そうだな。

俺はひとりでもやれるが。

お前は壱花がいないと、なにもできない半人前のようだからな」


「なんだとっ?

ちょっと臨時で店長やったくらいで偉そうにっ」


いやあの、社長。

斑目さんは我々のためにやってくださったんですが……。


「俺は子どもの頃から、この店やってんだぞっ」


それで売上負けてちゃ駄目だと思いますね……。


「見てろよ、斑目っ。

俺はここを日本一の駄菓子屋にしてみせるからなっ」


そーかそーか、とどうでもよさそうに斑目は牡蠣を焼き、


「いやあの、店長を極めてどうするんですか。

本業の方を極めてください……」

と冨樫が力なく言っていた。


社長……。

なんだかんだで、オーナーにいいように操られてますよね。


そう思いながら、壱花は斑目が焼いてくれた牡蠣でまた呑みはじめる。


いつ飛んでもいいように、穴あきお玉を膝に抱えて。




あやかし駄菓子屋商店街 化け化け壱花 ~ただいま社長と残業中です~

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