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早めに飛んでも起きれなきゃ意味ないよな~。
起きなきゃ起きなきゃ。
すぐに起きなきゃっ。
そう思いながら飛んだ壱花だったが、冷たい女湯の床の上で爆睡していた。
倫太郎たちも昨日の騒動で疲れ切っていて、起きられない。
だが、風呂を点検するスタッフは、すでに廊下まで迫っていた。
壱花はまだ夢を見ている。
決して開けてはナリマセヌ、という駄菓子屋の奥の障子を開けると、可愛い子狐が毛糸で手袋を編んでいた。
「見たな」
と言った子狐は、すたすたと壱花のところまで来ると、編んでいた手袋を片方渡し、
「見られたので、私はもうここにはいられません」
と言うのだ。
高尾さんっ、と涙しかける壱花だったが。
子狐は、どろんっ、と高尾の姿になり、壱花の肩を抱いて笑顔で言うのだ。
「というわけで、僕、今日から化け化けちゃんちに住むよっ」
……高尾さん。
正体が子狐だろうと、なんだろうと、高尾さんは、何処までも高尾さん……。
っていうか、私、ほとんど会社、駄菓子屋、社長の部屋の往復で過ごしていて。
自分のアパートにはあまりいないんですけどね……。
という夢を壱花が呑気に見ている間に、スタッフの人はもう男湯の点検を終えていた。
爆睡する壱花たち。
だが、そのとき、ふわふわっと壱花の鼻の辺りを舞ったものがあった。
壱花は盛大にくしゃみをして目を覚ます。
「は……、え?」
と冷たい床に手をつき、起き上がった壱花とともに、倫太郎たちも目を覚ます。
ケセランパサランは移動していったようで、大部分消えていたが。
ひとつ残っていたのだか、壱花の顔周辺をふわふわしていたようだ。
「なんだっ、今のくしゃみはっ。
……って、そうか。
ここは、女湯っ」
さすが、倫太郎の反応は早かった。
「出るぞっ」
と倫太郎は二人に声をかけたが、そのとき、女湯の脱衣場から音がした。
スタッフが点検に入ってきてしまったようだ。
やばいっ。
逃げられないっ。
どうするっ?
湯にもぐるかっ!?
いや、見えるだろっ。
と三人は視線で会話する。
倫太郎が湯を見ながら、小声で言った。
「いや、万が一見つからなくとも。
ここ出て、びしょ濡れのまま廊下歩いてたら、俺たちが、あやかしの船幽霊みたいだろっ」
確かに……。
それに、水たらして歩いちゃ、スタッフの人にも迷惑だよな、と思いながら、壱花は浴室内の様子を確認する。
脱衣場からはロッカーの扉を開け閉めするような音が聞こえていた。
浴場の中はシャワーも備品も桶も、ばっちりいい具合に整っている。
これだったら、適当な人なら中まで入ってきて確認はしないかも。
でも、目隠しになるようなものがないから、どのみち隠れられないしっ。
やっぱり駄目元で、お湯の中に沈むしかっ?
とぎゅっと両手を握りしめた壱花は、穴あきお玉を持っていない方の手にも、なにかを持っているのに気がついた。