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【前編】
〜吉田仁人side〜
白い天井を見つめる勇斗の目が、ゆっくりと瞬きをした。
病室に流れる静かな機械音の中で、勇斗は戸惑ったように周囲を見回す。
「……ここ、どこ?」
その声に、ベッドのそばにいたメンバーたちが一斉に息をのんだ。
柔太朗が一歩近づいて、なるべく優しく声をかける。
「病院だよ。覚えてる?」
「病院…?」
「うん。事故ったの勇斗、」
「事故……?」
勇斗は眉を寄せながらも、ゆっくり頷いた。
舜太が少し緊張した顔で笑う。
「俺のこと、わかる?」
「…舜太、」
舜太はほっと息をついた。
続いて太智も前に出る。
「俺は?ちゃんとわかってる?」
「太智」
そのやり取りを、俺は少し離れた場所から見ていた。
胸の奥が、嫌な予感で静かに締め付けられる。
柔太朗が最後に言う。
「……じゃあ、この人は?」
その瞬間、勇斗の表情が止まった。
名前を探すみたいに視線が宙をさまよう。
「……えっと……」
数秒… それが俺には十分すぎるほど長かった。
「……ごめん。わからない」
(まじ…かよ___っ,,)
病室の空気が、ぴたりと止まる。
舜太が小さく呟いた。
「…なんで、?なんで仁ちゃんだけなん、?よりによって…なぁ嘘やろ…?だって仁ちゃんと勇ちゃん…」
『舜太!…いいよ。勇斗も今目が覚めたばっかだし、、』
太智も言葉を失ったまま、仁人を見る。
仁人は一瞬だけ目を伏せて、すぐに表情を整えた。
『ごめん。なんでもない。今は無理しなくていいから、今日はゆっくり休んで』
自分の声が、ひどく遠くに聞こえた。
(あぁ…やっぱり、俺だけなんだ)
それからの日々、勇斗は驚くほど自然に日常へ戻っていった。
名前は忘れても、距離感は覚えているみたいだった。
「なあ……仁人〜?これどうすればいい?」
“吉田さん”と呼ばれるのは最初のほんの数回だけで、 すぐに当たり前のように名前になった。
それが嬉しくて、同時に苦しかった。
(思い出して呼んでるわけじゃないのにな…笑)
それでも勇斗は、困ると無意識に俺のそばに来た。
話しかけるときも、視線を向けるときも、自然と。
ある日のリハ終わり、勇斗が何気なく口にした。
「仁ちゃーん!これどこ置けばいい?」
一瞬、時間が止まったみたいだった。
俺は振り向けずに、拳を強く握る。
(今そう呼ぶ__っ,,?)
目頭が熱くなるのを必死に抑えた。
ぐるぐる回る感情をなんとか冷静になって、いつも通りの俺でいる。
勇斗はそんな俺に気づかないまま続けた。
『何急に』
「なんとなく?笑あ、嫌だった?」
「……いや」
俺は小さく笑った。
『好きに呼べば』
でも胸の奥では、何かが静かに壊れていく音がしていた。
(思い出さないまま使われるの、 こんなに苦しいんだな…笑)
好きにならなくていい。
思い出さなくてもいい。
ただ、離れないでほしい。
それだけを願う自分が、一番残酷だとわかってる。
to be continued…
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