こんなにも空っぽなのに、 見ているだけで満たされてしまうなんて。
それは、とても悲しいことだよ。
だって、そこには何も残されていないし、 誰にも必要とはされないのだから。
ここは……どこなんだろう?……誰も来ないわよね? さあ、どうぞお入りくださいませ。
ここならば、きっと見つかりませんよ。
大丈夫です、ご心配なく。
ここにはあなた様を脅かすものはありません。
安心して、ゆっくりとおくつろぎ下さい。
ここにいる限り、あなた様に危害を加える者はおりません。
ですからどうか安心して、お眠りくださいませ。
ここは楽園。あなたの為の世界なのです。……あの子は、どうして泣いていたんでしょうか? こんなにも美しい世界にいるのに。
ずっとここにいれば幸せになれるのに。
ここには怖いことなんてひとつもないんですよ。……あの子も、早くわかってくれたらいいんですけどね。
だって、ここはこんなにも平和なんだってことを。
あなたもきっと気に入ると思いますよ。
ほら……ここにいるだけで気持ちが落ち着くでしょう? それにしても、あなたのお話は本当に興味深いですね。
ずっと聞いていても飽きませんし、もっと聞かせてください。
えっ……それは困ります! まだ聞きたいことはたくさんあるのですから。
もちろん、あなたが良ければですが……。
あら、ごめんなさい。
つい話し込んでしまいましたね。
お茶のお代わりを用意しましょう。
はい、どうぞ。
ところで……
最近、この街では変わったことが起きているらしいですよ。
何でも、若い人が突然姿を消したとか……。噂によると、どこぞの国のお姫様らしいわよ。
あの人ったら、あんなに偉そうなことを言っておいて、結局は女だったってことね。
えっ、違う? じゃあ、一体どこに行ってしまったっていうの? まさかとは思うけど……
ひょっとしたら、誘拐されちゃったりして!? ほら、よく言うじゃない。
「金塊より美しいもの」なんてさ!……うーん、確かにそういうこともあるかもねぇ。
それにしても、ずいぶんと大袈裟な話よね。
どうせなら、もっとロマンチックな話の方がよかったよ。
この手の話だとしたらさ。
ほら、例えばこう言うとか。
『僕は君をずっと探し続けていた』ってね。
うん、これなら文句なしだよ! だって、僕がここにいる理由になるじゃないか。
もっとも、今はちょっと違うけど。
それでも、君を見つけることができたし。
それにしても、ここは本当に真っ暗なんだねぇ。
君はこんなところで何をしてたんだい? へぇー。
なるほど。
それで、君はここで終わるつもりなのか。
まぁ、いいんじゃないかな? ここだったら安全だし。
誰も邪魔をすることはないと思うよ。
少なくとも、僕ら以外はね。
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