テラーノベル
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カーテンの隙間から差し込む陽光が、寝室のシーツを白く焼き付けている。その柔らかな光の筋が、隣で眠る愛しい人のまつ毛を揺らした。
「……ふぅ、……すぅ……」
規則正しく、けれど時折ふにゃりと崩れる、愛らしい寝息。そこにいるのは、狐の耳を時折ぴくりと震わせながら眠りの中を漂っている、dnだ。
俺が彼に一目惚れし、半ば強引にこの屋敷へ連れ去ってから、もう一年が経つ。最初は恐怖に震えていたはずのその瞳は、今では俺を見つけるたびに春の陽だまりのような熱を帯び、ふっくらとした尻尾は喜びを隠しきれずに左右へと揺れる。
「……本当に、君がいないと生きていけない体になっちゃったな」
自嘲気味に、けれど隠しようのない熱を込めて、俺は指先で彼の頭を撫でた。吸血鬼という、悠久の時を生きる孤独な種族にとって、一年の歳月など本来は瞬きほどのものでしかない。けれど、彼と過ごしたこの三百六十五日は、これまでの数百年よりもずっと濃密で、彩りに満ちていた。
俺の指が髪を梳く感覚に、dnが小さく身悶えした。
「……ん、……ふぁ……」
長いまつ毛が震え、その隙間から宝石のような瞳がのぞく。視界に俺を捉えた瞬間、彼の顔にふわっと花が開くような笑みが浮かんだ。
「……dn、おはよ」
「おはよう、……早いね、mfくん……」
まだ夢の中に半分足を突っ込んでいるような、とろけた声。その無防備さが、俺の心の奥をぎゅっと締め付ける。吸血鬼という強者の本能が、この小さくて温かい存在を誰にも触れさせたくないと、闇の底で疼くのを感じた。
「そうかな。……ほら、おいで」
俺がいつものように両腕を広げると、dnは迷うことなくその胸へと飛び込んできた。寝起きの体温は驚くほど高く、人間と狐のハーフである彼の脈動が、肌を通して直接伝わってくる。
「ふふ、尻尾が当たってくすぐったいよ」
「えへへ、だって嬉しいんだもん……」
見上げれば、フリフリと忙しなく揺れる尻尾と、甘えるように細められた瞳。この瞬間、俺は確信する。彼をこの屋敷に繋ぎ止めているのは、俺が用意した物理的な壁ではない。俺たちが互いに抱く、この逃れようのない依存なのだ。
ふと、枕元に置いたスマートフォンに目をやる。画面に表示された数字は、すでに九時を回っていた。
「もう九時だ。朝ごはん作るよ、キッチンに行こうか」
「えっ、ええ……っ!? もうそんな時間なの?」
dnがガバッと起き上がった。狐の耳が驚きでピンと直立している。
「やばい、寝坊だあ……! 今日はちゃんと朝ごはんの準備手伝おうと思ってたのに!」
慌てふためくその姿が、あまりにも微笑ましくて。
「ふふ、確かに。でも、慌ててる君も可愛いよ」
「もうっ、mfくん、からかわないでよ……っ」
顔を真っ赤にして、小さな拳で俺の胸をポカポカと叩く。その感触さえ愛おしい。
「……でも、mfくんも格好いいよ。今日も、大好き」
恥ずかしそうに、けれど真っ直ぐに届けられた言葉に、今度は俺の心臓が跳ねた。不老不死の吸血鬼を、たった一言で揺さぶることができるのは、世界で彼一人だけだ。
「……っ、……ありがと。ほら、行くよ」
熱くなった顔を隠すように、俺は彼を抱き寄せた。dnは少し照れたように、俺の肩口に顔を埋める。
長い廊下を歩きながら、窓の外を見つめる。空は驚くほど高く、青い。
けれど、その平穏の裏側で、不穏な影が忍び寄っていることを、俺の鋭敏な感覚が捉え始めていた。
吸血鬼という存在は、常に世間の目を避けて生きている。俺の中に流れる特別な血は、力を持つ者たちの間に常に囁かれる噂の種だ。そして、その血を分け与え、特別な繋がりを持つdnの存在は、俺にとって何よりも守るべき宝であると同時に、危険を招く可能性も秘めている。
腕の中の温もりを感じる。もし、この穏やかな日々を脅かそうとする者が現れたら。もし、この温かい場所が、誰かの悪意に晒される日が来たら。
その時は、俺の中の抗いがたい衝動を解き放ってでも、君を守り抜く。たとえ、俺たちのこの安息が、血と暴力によって守られることになったとしても。
「……mfくん? どうしたの?」
不安そうに覗き込んできたdnの頬に、俺はそっと口づけを落とした。
「いいや。……今日の朝ごはんは、何が食べたい?」
今はただ、この愛おしい一瞬を噛み締めていたい。いつか来るかもしれない嵐の前の静けさの中で、俺は彼を抱きしめる力を少しだけ強めた。
NEXT…後宮編完結後に一話投稿します!
♡数やコメント数で結構投稿頻度変わったりしますのでご了承ください…笑
後宮編も見てくださると嬉しいです✨️
あ、書き方変わりまくっててごめんなさいい
コメント
9件
2人とも大丈夫ですかね⋯❔️ シーズン2!!!最高です🥹🥹 一緒に寝ているmfdnが可愛すぎます🫶🫶 本当に毎回表現がすごすぎて尊敬です⋯😭‼️
season2…!!😭✨👏🏻✨👏🏻✨👏🏻✨👏🏻✨👏🏻✨ 1の時からもう好きで好きで… 今から楽しみにしてます🥰
これは、第一話、ではないのですね…!なんて重厚な予告…!! 嵐の予感がしますねぇ…いやだー幸せに暮らしてて欲しいのに‼︎ 楽しみにしています‼︎