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【彼女が露出の多い服を着ていたら】
夏の夜、友人たちとの集まりに向かう前。
鏡の前でワンピースの肩紐を整えていると、背後から声がした。
「……それ、今日着てくの?」
振り返ると、吉沢さんが少し眉を寄せて立っていた。
胸元は控えめだけれど、背中が大胆に開いたデザイン。
街中では見かけるような服なのに、彼の視線が妙に熱を帯びている。
「似合わない?」と冗談めかして聞くと、ほんの一瞬、彼は言葉を詰まらせた。
「……似合う。似合いすぎて、困る」
軽く笑い飛ばそうとした瞬間、彼が一歩近づく。
背中にそっと手を添えられ、布越しに体温が伝わった。
「他のやつに、そんなに見せたくない」
低く囁かれて、鼓動が早くなる。
「……じゃあ、どうすればいいの?」
問い返すと、彼は少しだけ微笑んで――
「俺の隣から、離れないで」
その夜、集まりの間ずっと、彼の手が私の腰に添えられていた。
夜風が少しだけ涼しくなった帰り道。
街灯の明かりが歩道を淡く照らしている。
集まりが終わってから、ずっと彼は私の隣を歩き続けていた。
「……やっぱり、あの服は危ない」
ふいに言われて、思わず笑ってしまう。
「もう終わったのに?」
「終わったから言えるんだよ」
横目でこちらを見るその瞳が、昼間よりずっと静かで深い。
信号待ちで立ち止まったとき、彼が一歩近づく。
夜風に混じって、彼の香りがかすかに鼻をかすめた。
「……俺以外の誰にも、あの姿見せたくない」
その言葉が落ちると同時に、手がそっと私の頬に触れる。
抵抗する間もなく、彼の唇が重なった。
優しくて、でもどこか独占するような熱。
離れたあと、彼は少しだけ照れたように笑った。
「ね、もう次からは俺が選んだ服、着てくれる?」
返事をする代わりに、彼の手をぎゅっと握り返す。
その夜、服よりもずっと熱い記憶が、心に刻まれた。