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翌朝、ラヴァリン城下町からグレンヴァル山へ向けて、馬車の車列が出発した。 先頭に少しばかり装飾のされた、王女の側近達が乗る馬車。その後ろに豪華な装飾が施された、王女二人のための馬車。そしてその後ろに、湯汲みの者達が乗る馬車や、荷馬車が続いている。
「わぁ〜、こんなたくさん馬車を出すのね!すごい!」
ソラヤが、馬車の窓から身を乗り出して、後ろに続く車列を眺め、無邪気に笑う。
「ソラヤ、危ないわよ。ちゃんと座ってて」
「はーい」
シトリンの嗜める言葉に、ソラヤは大人しく従い、座席に腰を下ろした。
後に続く馬車の列。そのほとんどは、アルタリアがラヴァリンにそれ相応の金を払った上で用意してもらった物だ。
ラヴァリンとしても商売だし、シトリンが国から引き出した予算は尽きかけていて、これからは稼いだ分でやりくりしなくてはならないので、金払いの良い相手は嬉しい限りだ。
もちろん、運び出した湯もラヴァリンの所有物なので、アルタリアに運ぶ前にラヴァリンから買い取ってもらう契約になっている。
「ねーねー、どれくらいで着く?」
「まだまだよ。というか昨日、山の裾を通ってきたんでしょう?」
ラヴァリン王都に入るには、グレンヴァル山を迂回するか越えるかしかない。
山越えをする者は居ないので、ソラヤは、というかラヴァリン王都にやってくる者全ては、グレンヴァル山と王都の距離感は否応なしに理解しているはずなのだ。
「でも〜、待ちきれないんだもん」
「慌てなくても、山は逃げないわ。今日は天気も良いから、雨天中止なんてことも無いわよ」
馬車の中は、実に和気あいあいとしているし、二人とも登山着姿なのだが、窓から差し込む陽の光に照らされるその姿は、王女としての気品ある美しさを感じさせた。
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その日は、実によく晴れた日であった。雲すら無く、強い風も吹かずに穏やかで、絶好の登山日和と言える日だ。
木が生えておらず、日陰の無い山なので陽光が暑いと言えばそうなのだが、その暑ささえも清々しいものと感じるほど、爽やかな一日であった。
日差しの強いアルタリアから来たソラヤにとっては、日差しなど強めの方が調子が出るくらいだ。
だから行軍も早い早い。ソラヤの召使い達は『もし姫が足手まといになるようなら、我々で担いで行こう』などと考えていたが、全くの杞憂であったし、むしろ荷物が軽い分だけソラヤの方がハツラツとしている有様だ。
「ねーねー、温泉まであとどれくらい?」
「あと半分くらいね。でも、残りの道はあんまり上らなくていいから、ここまでよりずっと楽よ」
「やったー!もうすぐ温泉〜!」
ソラヤは疲れた様子も無く、スキップまでする余裕まである。……シトリンが危ないから止めてと即座に諌めたが。
(そう言えば、ソラヤに聞いておくべき事があったわね)
登山中でなければ、意味が無い質問だから、今聞くより無い。
「ソラヤ、ちょっといい?」
「なぁに?」
「この登山は、誰でも山に登れるかの実証実験も兼ねてるの。もし、ソラヤの近くに、自力で登れなさそうな人の心当たりがあれば、教えて欲しいんだけど」
温泉に入るには、当然だが登山をしなければならない。しかし、癒やしの力が必要は人ほど体が弱っているのもまた道理で、そういう人に自分の足で登ってこいというのも酷な話だ。
「うーん、とりあえずお祖父様とお祖母様は無理ね。お母様も無理かも、どこに行くにもラクダで、全然運動してないもの。アルマは……あ、アルマはわたしの弟、まだ小さいけど凄く元気だから、多分行けると思う」
その後も、大臣の某は太りすぎているから無理だの、でも召使いの某は太っているけど力持ちだの、その大半はシトリンが知らない人物だが、様々な名前が挙げられた。
「ありがとう。参考にさせてもらうわ」
「ふふふっ、どういたしまして」
シトリンが会ったことも無い人物の情報でも、そういう人が居ると知れるだけで十分だ。
特に、シトリンに対して何の遠慮も無いソラヤの率直な意見となると、その価値たるや、相当なものである。