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「……あ……あの……」
何も言わないお兄さんに、声をかける。
「ああ、ごめんね。ちょっと律に用があるんだよね。待たせてもらってもいいかな?」
「え? いや、それは……」
「いいよね?」
良いと言っていないのに、そう強引に確認を取ると、無理矢理部屋へ入ろうとしてくる。
(ど、どうしよう……勝手に上げたら律が怒りそうだし、それに……何か、この人と二人きりには、なりたくない)
「あのっ、こ、困りますっ!」
何とか彼を押し留め、必死に追い返そうとしていると、
「何してんだよ」
横から低い声が聞こえてきた。
「律……」
ちょうど帰って来た律はお兄さんと私の間に割って入り、庇うように立ってくれる。
「何の真似だ?」
より一層冷ややかな口調でお兄さんに問う律。
「やだなぁ、そんな怖い顔するなよ? ちょっと律に用があってさ、中で待たせてって頼んでたんだよ」
「無理矢理入ろうとしてたみたいだが?」
「そんな事ないよね?」
お兄さんは私に同意を求めてくるけど、怖かった私は何も答えず律の後ろに身を隠した。
「あれ? 嫌われちゃったかな?」
「とにかく、金輪際今みたいな真似はするな。それから、この前も言ったが、俺の方に用はない。話す事もない。帰ってくれ」
それだけ言うと、律は私の手を引いて部屋に入り、ドアを閉めて鍵をかけた。
暫くすると、玄関の外から人の気配が消えて行く。
「あ、あの、律……」
「何で開けたんだ?」
「ご、ごめんなさい……律、鍵持って行かなかったから、だから、律かと思って……」
「馬鹿野郎! こんな時間に確認もしないで開けるな!」
静かな部屋に律の怒声が響き、私は何も言えずに俯いた。
すると、
「……悪い、元は俺のせいだよな……」
そう言いながら律は私の頭を優しく撫でてくれた。
「……律……!」
その行為が嬉しくて私が律に抱きつくと、そんな私に応えるように背中に腕を回して抱き締めてくれた。
「……さっきは、悪かったな……」
その言葉に、首を横に振る。
「……だいぶ、遅くなっちまったな。今から送るよ」
時計に目をやった律は私を放して車の鍵を手にしようとする。
「だ、大丈夫! 明日、土曜で学校……休みだし、親にはその、友達のトコに泊まるって……言っておいたから……だから……」
「…………」
私の言葉を聞いた律は何かを考えるように黙り込んでしまう。
もっと一緒に居たい。
泊めて欲しいって思うけど……やっぱり無理なのかと諦めかけていると、
「…………今から少しドライブしよう」
頭にポンっと手を乗せた律は優しい口調でそう言った。
「うん」
まだ一緒に居られる、それが分かった私は嬉しくて、自然と笑顔になっていた。
ドライブをすることになり、アパートから暫く車を走らせていく律。
どこか目的があるみたいなのに場所を教えてはくれず、車は市外へと向かって行く。
それから更に走り続け、気が付けば時刻は深夜一時を回っていて、流石に眠くなってしまった私は欠伸をして目を擦る。
「何だ、眠いなら寝ていいぞ? 着いたら起こしてやる」
「でも……」
「俺の事は気にするな。昼間寝てたし」
「……じゃあ、ちょっと寝るね」
「ああ」
律の言葉に甘えた私は椅子を軽く倒して目を瞑ると、睡魔は一瞬にして私の意識を闇へ誘った。