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55 ◇祭り2
話はまたまた祭り2日めへと戻る。
初日も2日めも昼前から参加して4人はそろそろと露天商の立ち並ぶ道
を練り歩き、時には足を止めてかき氷や甘酒を堪能した。
意見が揃い4人全員でしたのが、金魚すくいだった。
『ぎゃぁ~、破れた~』などと、騒ぎながら童心に返り金魚すくいを
してひと時楽しんだ。
昨日の今日で皆疲れていたため、14時頃にはもう帰ろうかという話に
なった。
この時、珠代が素早く夫の和彦にサインを送った。
出掛けに『今日は帰り、ふたりキリにしてあげたいから』と和彦に
申し渡してあったのだ。
それで『お兄ちゃん、私と和くんはちょっとだけ、古本を見て帰ろうと
思ってるから、お兄ちゃんと温子さんは先に帰ってて』と兄の涼に
言った。
「そっか、ならほんとは家の近くで話そうかと思ってたんだが……」
「話ってなぁ~に?」
「珠代にも心配かけたけど、珠代一押しの温子さんと結婚することに
なった」
「ちょっ、ちょっと待って。交際じゃなくて?」
「お互いもう年齢も年齢だからな。
温子さんに了承してもらって、交際の期間を縮めてもらって早くに
結婚することに決めた」
「いっ、いつよ―――――――――――――――――――――――っ!」
神社で絶叫する珠代の声があった。
見ると、珠代は口に手を当て、むせび泣いていた。
「珠代……」
和彦がやさしく肩を抱いた。
そして義兄の涼と温子に向けて、微笑みを送った。
「おふたりとも、おめでとうございます」
「「ありがとう」」
「珠代、ずっと心配かけていたみたいで、すまないね。
和彦くんもいろいろと今まで貴重な休日を珠代に付き合わせてしまって
申し訳なかったね」
「そんなこと……こちらこそ余計なのまでくっついて行って散財させて
しまい申し訳ありません。でも珠代は先見の明があったみたいですね。
おふたりはすごくお似合いで、僕もうれしいです」
涼に祝福を送る和彦の腕の中で珠代は今だ滝のようなうれし涙を
流していた。その様子を見て和彦が「よかったな……」と言いながら
やさしく背中を撫でた。
その様子を見ていた温子は、珠代のことが羨ましくもあり面はゆくもあった。
そしてそれと共にどこからともなくじんわりと喜びが沸きあがり幸せな
気持ちになるのだった。
この先の自分の人生にまた女性としての彩りが蘇るだなんて……思っても
みず、涼から告白された日にどんなうれしかったか喜びもひとしおで、
それをまた思い返し感無量だった。
涼は、兄である自分のことをずっと心配してくれていた妹の珠代の気持ちが
いじらしかった。
両親を一度に水害で亡くし、どうしても寂しさがぬぐえずにいた。
そのようなふたりの前に既婚者だった温子が離婚することになったからと
寮に入所すると言う形でふたりの前に突如として現れた。
彼女の存在は涼と珠代にとってパァ~と明るく光り刺すものであり、
生きていく上でのエネルギーの源となった。
そして、涼と温子との結婚が決まるということは、涼と珠代の胸に足りなかった
ピースがカチっとはまった瞬間となった。
――――― シナリオ風 ―――――
〇 神幸祭り 二日目 昼前
秋空の下、賑やかな露店通りを四人がゆったりと歩く。
色とりどりの旗が風に揺れ、甘酒と焼き団子の香りが鼻をくすぐる。
涼、温子、珠代、和彦――昨日からの疲れも見せず、笑い声を
交わしながら露店を覗く。
珠代「わぁ、金魚すくい! やりましょうよ、皆さん!」
四人は童心に返り、金魚すくいに興じる。
紙のポイが破れ、「ぎゃぁ~!」と声を上げては、笑いが弾ける。
※ ポイ(金魚をすくう道具)
〇 神社前の広場(午後二時頃)
少し早いが、そろそろ帰ろうという話に。
珠代が和彦に目配せを送る――出掛ける前に示し合わせていた
「ふたりきり作戦=ふたりっきりにする」の合図だ。
珠代「お兄ちゃん、私と和くんはちょっと古本屋を見て帰りますから……
お兄ちゃんと温子さんは先にお帰りになって」
涼「そうか……実は家の近くで話そうと思っていたんだが」
珠代「話って、なぁ~に?」
涼「珠代にも心配をかけたが……珠代一押しの温子さんと、結婚することに
なった」
珠代「……えっ? 交際ではなくて?」
涼「お互いもう年齢も年齢だからな。
温子さんに了承していただいて、交際の期間を縮て早くに結婚することに
決めた」
珠代「いっ……いつよ――――――――――――――っ!」
神社の境内に珠代の絶叫が響く。
珠代は両手で口を押さえ、そのまま嗚咽を漏らした。
和彦「珠代……」
和彦は珠代の肩をやさしく抱き、涼と温子に向かって微笑む。
和彦「おふたりとも……おめでとうございます」
涼・温子「「ありがとう」」
涼「珠代、ずっと心配をかけていたようで、すまないね。
和彦くんも……休日を珠代に付き合わせてしまい、申し訳なかった」
和彦「そんなこと……こちらこそ余計なのまでくっついて行って、散財させて
しまい申し訳ありません。
でも珠代は……先見の明があったようですね。
おふたりは本当にお似合いで、僕も嬉しいです」
涼の言葉に、珠代は和彦の胸で滝のような嬉し涙を流し続ける。
和彦は「よかったな……」と囁きながら、その背を優しく撫でる。
温子は、その光景を羨ましくも、面映ゆく見つめる。
やがて、胸の奥からじんわりと温かな喜びが広がる ――。
涼から告白された日のことを思い出し、あの時の感動が再び
押し寄せるのだった。
涼もまた、妹・珠代の気持ちに胸を打たれていた。
両親を水害で一度に失い、寂しさを拭えぬ日々。
そこへ、離婚を経て旧姓に戻った温子が、看護婦として寮に入った。
その存在は、涼と珠代にとって眩しい光のようであり、生きる力を
与えてくれるものだった。
涼と温子の結婚――それは、ふたりの胸に長らく欠けていた“最後の
ピース”が、静かにカチリと嵌った瞬間であった。