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第26話 〚笑顔の裏で、囁かれたもの〛
昼休みの教室は、
いつもより少し騒がしかった。
澪が席に戻った、その瞬間。
前の席で、
姫野りあ(ひめの りあ)がわざとらしく大きな声を出した。
「ねえ聞いた?
“高嶺の花”ってさ、喋らないから神秘的なだけでしょ?」
くすくす、と
周りに小さな笑いが広がる。
――その声。
澪の胸が、きゅっと縮む。
(笑顔の裏で、ひそひそ声)
第9話で見た予知が、
脳裏をよぎった。
「勘違いしてる子、多いよね〜」
りあは続ける。
「優等生男子に近づけたからって、
自分も特別だと思っちゃうやつ」
見下すような視線が、
一斉に澪へ向けられる。
(……これ)
(全部、同じ)
男子が近くにいるのを確認してから、
りあは声を一段高くした。
「私だったらさ〜、
ちゃんと喋れるし、空気も読めるけどな?」
教室が、静まる。
澪に集まる、
好奇と嘲りの混じった視線。
「……ほんと、調子乗ってるよね」
誰かの、ひそひそ声。
――予知で聞いた、そのままの言葉。
澪は、
俯いたまま、何も言わなかった。
その沈黙を、
りあは「勝ち」だと思った。
――その時。
「……それ、私のこと?」
小さく、
でもはっきりした声。
澪が顔を上げ、
初めて真正面からりあを見た。
「喋らないのは、喋れないからじゃない」
教室が、息を止める。
「誰かを下げて笑う会話に、
入りたくないだけ」
空気が、一気に変わった。
「あと」
澪は、
震える手をぎゅっと握りしめる。
「私が誰と話すか、
あなたに決められる理由はない」
一瞬、
りあの表情が凍る。
――でも、すぐに笑顔を貼り付けた。
「なにそれ〜、被害者ぶってるの?」
声は甘い。
けれど、目は冷たい。
澪は、静かに首を振った。
「違う」
そして、
はっきりと続けた。
「……もう、黙らないって決めただけ」
その言葉に、
誰も笑わなかった。
笑顔の裏で囁いていたはずの悪意は、
光の下に引きずり出される。
りあだけが、
教室の中央に取り残されていた。
初めて――
“向ける側”ではなく、
“向けられる側”として。
第9話で見た予知は、
こうして静かに、
完全に現実になった。