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第27話 〚立つと決めた場所〛
教室に残った、
重たい沈黙。
それを破ったのは――
椅子が床を擦る音だった。
「……あー、ちょっといい?」
橘海翔が立ち上がる。
いつもの軽い笑顔はない。
声も、静かで落ち着いていた。
「今のさ、普通にアウトじゃない?」
りあが、一瞬きょとんとする。
「え? なにが〜?」
「誰かを名指しして、
みんなの前で悪く言うやつ」
海翔は、はっきりと言った。
「それ、冗談でもノリでもない」
「は? 私、そんなつもりじゃ——」
「でも、聞いてた側は傷つく」
言葉を遮るように、海翔は続ける。
「俺、さっきの言い方、
正直、嫌だった」
教室がざわつく。
――あの橘が?
そんな空気が、はっきりと伝わってきた。
海翔は一瞬だけ、澪の方を見る。
そしてすぐ、りあへ視線を戻した。
「静かな人が黙ってるのってさ、
弱いからじゃない」
少し間を置いて、続ける。
「ちゃんと考えてるからだと思う」
りあの笑顔が、
少しずつ、ひび割れていく。
「……なんで、そっちの味方するの?」
その問いに、
海翔は肩をすくめた。
「味方とかじゃない」
そして、迷いなく言う。
「正しい方に立ってるだけ」
その一言で、
教室の空気が、はっきりと変わった。
海翔は最後に、
少しだけ声を和らげて付け足す。
「それとさ」
「人を下げないと可愛くなれないなら、
やめた方がいいと思う」
静まり返る教室。
誰も、
何も言えなかった。
澪は、その場に立ち尽くしたまま――
胸の奥が、じんわりと熱くなるのを感じていた。
(……守られた)
そう、初めて思った。
海翔は何事もなかったように、
自分の席へ戻る。
座る直前、
小さく、澪にだけ聞こえる声で言った。
「……大丈夫?」
その一言で。
澪の胸の奥に、
静かな熱が、確かに灯った。