テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「お気遣いありがとうございます。ちょうどいいですね。俺が持っていきますね」
「すみません、お願いします」
直美さんがホッとした様子で座ると、中西さんが彼女の頭をポンポン……とした。
……なんという溺愛ぶり……
調子のいい夫と、ラブラブぶりを見せつける中西夫妻。
もわっとした空気と、ジュースのように美味しいお酒。
“きゃははっ……”
微かに子どもたちの笑い声が聞こえたと思ったら、夫が戻ってきた。
「仲いいね、千愛と亜優ちゃん」
「千愛ちゃんがいいお姉ちゃんをしてくれていますから。秋山さん、本当に千愛ちゃんのことをよく見て家庭的なパパですよね。千愛ちゃんもパパのこと大好きだし」
直美さんが言うのを聞きながら、夫は網の位置を調整する。
「いやぁ、そうでなきゃ生きていけないでしょ?」
「ふっ……生きていけない?」
あら、中西さんが吹き出すように笑ったわ。
「娘が年頃になって、パパあっち行って…とか言われると会社で聞くけど絶対に嫌だね。考えたくもない」
「成長ってことでしょ?子どもが勝手に大きくなる部分」
「いやぁ、中西さん、そんなの受け入れられる?俺、嫌だわ。今しか注げない愛情をたっぷり千愛に注ぎたい」
「それって建前で、実際には娘より奥さんが大事でしょ?俺は亜優より直美です」
あまりにもはっきりと言い切った中西さんに
「……子どもが生まれたら、子どもに目がいかない?」
と夫が珍しく遠慮がちに聞く。
中西さんがこれだけ勢いよく話すことを見たことがないからね。
「いかない。この世で一番愛した者を愛し続けて当然。子どもだろうが何だろうが直美以外、一番にはならないっ!」
ぐしゃっと缶を握りしめて力説する中西さんに、夫は反論を諦めたようで、また残りの食材を焼き始める。
すごい勢いには驚きだけれど、中西さんくらい気持ちよく妻を愛している!と、叫べる男性がどのくらいいるのかな。
それが隣人だなんて……
トングを置けば、空き缶を集める夫。
ペコリ、と頭を下げて空き缶を渡す直美さん。
こんな夫、いつもじゃないからね!
私は、リンゴサワーの最後の一口を飲み干すと
「直美さんの働く珈琲大陸で【既婚者合コン】っていうのをやっているんだってね」
と口を開いた。
「何を言うんだっ?いきなり、なんだっ?」
夫が、大きな声で驚き、空き缶を集めた袋を持ったまま突っ立っている。
どうして夫がそんなに驚いたのか、この時の私には分からなかった。