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유리
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数日後の満月の夜。米花博物館の広大な屋上に、ヘリコプターの爆音とサーチライトの光が激しく交錯していた。
「……そこまでだ、キッド!」
新一の鋭い声が響く。今夜の新一は違った。あのラブレターやハッキング(笑)のせいでさんざん大パニックに陥っていたものの、いざ現場で対峙すれば、その脳細胞は冷徹な探偵へと瞬時に切り替わっていた。キッドがハンググライダーを広げて飛び立とうとした瞬間、新一が仕掛けていたワイヤーのトラップが完璧に作動した。
「しまっ……!?」
パチンと小気味いい音がして、キッドの白いシルクハットが夜風に吹き飛ばされる。それだけではない。新一がさらに距離を詰め、キッドの顔を隠すモノクルの紐へと手を伸ばした。
(捕まえる……! こいつの仮面を剥ぎ取って、あの手紙の、あのメッセージの真意を暴いてやる……ッ!)
新一の瞳に、宿敵への凄まじい執着と、どこか熱い情念が宿る。あと数センチでモノクルに指が届く。キッドの天才的なポーカーフェイスが、焦りと、そして目の前の探偵のあまりの気迫に、本気で崩れかけたその時だった。
「うわああああっ!? ど、どいたれ工藤ーっ!!」
場違いな、やたらと声のデカい関西弁が夜空に響き渡った。
ドダァァァン!! と、ものすごい音を立てて、屋上の給水タンクの陰から飛び出してきた男が盛大に転がってきた。緑のキャスケット帽を被った男――服部平次である。平次はわざとらしいほど派手に足を縺れさせ、新一の背中に背後から猛烈な勢いでスライディングをかます形になった。
「わっ……!? おい、服部!?」
不意を突かれた新一の身体が、平次の巻き添えを食らって派手にバランスを崩す。伸ばしかけた新一の手は空を切り、二人は屋上の床へとドタバタと折り重なるようにして転がった。
「いったたた……! わりぃ工藤! 応援に駆けつけよう思たら、床のワイヤーに足引っ掛けてもうたわ!」
「お前……っ、何やってんだよ大事な時に!!」
新一が平次の下から這い出し、怒鳴り散らしながら慌てて屋上のフェンスへと視線を戻す。しかし、そのわずか数秒のタイムロスは、大怪盗にとって十分すぎる時間だった。キッドはすでにハンググライダーの翼を完全に広げ、夜風を捉えて宙へと身体を浮かせていた。吹き飛ばされたシルクハットも、いつの間にか手元に回収されている。
「おやおや、今夜の名探偵はいつも以上に狂暴でしたね。危うく私のすべてを暴かれてしまうところでした」
キッドはハンググライダーを操りながら、ふわりと夜空へと上昇していく。
「くそっ! 待ちやがれキッド!!」
新一が悔しそうにフェンスに駆け寄り、夜空を見上げる。その新一の視線は、完全にキッドの「全体」へと向いていた。だから、新一は見逃した。床に這いつくばったまま
「いやぁ、ホンマすまんすまん」
と頭を掻いていた服部平次が、新一の背中越しに、夜空のキッドへ向かってニカッと白い歯を見せて笑ったことを。そして、親指を立てて、さらっと綺麗なグッドサインを掲げたことを。
(……っ!)
ハングライダーのバーを握ったまま、キッド(快斗)はそのサインを絶対に見逃さなかった。モノクルの奥で、快斗は驚きに目を見開いた後、すぐにすべてを察して、口元をふっと緩めた。
(なるほどな……。あいつ、全部気づいてて、わざとドジ踏んで俺を助けやがったのか)
平次はきっと、学校でパニックになりながら快斗に恋愛相談(笑)をしている新一の様子や、新一が「黒羽がキッドならよかったのに」と零していたこと、そして新一のキッドへのあまりに異常な執着ぶりを、隣県から生温かい目で見守っていたのだろう。
「このまま工藤に正体がバレたら、この面白い(じれったい)関係が終わっちまう」とでも思ったのか、あるいは純粋に、親友の「恋路」を裏からサポートしてやるための、平次なりの粋なアシストだった。
「では名探偵、また次の舞台で。……それと、そちらの頼もしい『お仲間』にも、よろしくお伝えください」
キッドは夜空でエレガントに一礼すると、満月の海へと鮮やかに消えていった。
「あいつ……最後に何言ってんだ?」
新一が不思議そうに眉をひそめ、振り返って平次を睨みつける。
「おい服部! お前マジで何しに東京来たんだよ! 完全に足引っ張りやがって!」
「いやいや、せっかく工藤のピンチやと思って大阪からすっ飛んできたんやがなー! ま、あの大泥棒さんにも、なんか『伝言』残されたみたいやし、今夜はこれで勘弁したってや!」
平次はそう言って、新一の肩にガシッと腕を回し、内心で(はよ正体バラして工藤を泣かしたれよ、黒羽)と大爆笑しながら、真っ赤な顔で悔しがっている新一をニヤニヤとからかうのだった。
コメント
1件
おおー、第16話読み終えたわ! いやもう、服部のドジがまさかの「わざと」だったっていう裏切り、めっちゃ好き。新一のキッドへの執着が熱すぎてちょっと笑えるし、それを平次がニヤニヤしながら裏でサポートしてるの、最高のブロマンスやん! ページめくる手が止まらんかったわ🔥 続き、めちゃくちゃ気になる!!