博麗神社の境内は、夜の冷たい風がほんの少し揺れていた。
灯された提灯の赤い光が、まるで誰かを呼ぶように静かに揺らめいている。
霊夢は縁側に座り、湯呑みを両手で包み込んだ。
「今日は来ないのかしら。あいつ、珍しく遅いわね。」
言葉には出さないけれど、胸の奥がソワソワしていた。
魔理沙が来るか来ないかで気持ちが左右されるなんて絶対に本人に言えない。
その時、
「よ!霊夢!」
聞き慣れた明るい声。
霊夢が顔を上げると、黒い影がふわりと境内に着地した。
「遅かったじゃない。何してたのよ」
「星をちょっと集めてたんだよ」
得意げに言いながら、魔理沙は霊夢の隣に腰を下ろす。
帽子からこぼれ落ちるように、小さな星屑が煌めいた。
「…また変なもの持ってきたわね。」
「変じゃねえよ。霊夢に見せたかったんだ」
その言葉に、霊夢の心臓が一瞬だけ跳ねた。
「なんで私に?」
「お前意外と星見るの好きだろ。境内でぼーっとしてる時とかさ」
「見てたの?」
「見えてたんだよ。そばにいたからな」
魔理沙は少し笑いながら言う。
霊夢は横顔をじっと見つめて、視線を逸らした。
「…あんた、ほんとにばか。」
「お、急に褒められた気がするぜ?」
「褒めてないわよ。…でもありがと。」
霊夢が小さく言うと、魔理沙は一瞬きょとんとして、すぐ嬉しそうに目を細めた。
境内の上で、大きな流れ星が尾を引いて落ちていく。
二人は黙って夜空を見上げた。
その距離はほんの指先ひとつぶんくらい。
けれど、霊夢に触れたら壊れそうなほど近く感じられた。
「なあ霊夢」
「ん?」
「また、一緒に星を見ようぜ」
「…しょうがないわね。あんたが来るなら付き合ってあげる。」
「お、じゃあ毎日来てやる」
「勝手にすれば?」
言葉では素っ気ないのに、霊夢の横顔は、どこか嬉しそうに赤く染っていた。
魔理沙はそれに気付いたが、何も言わずただ隣に座り続けた。
夜空には流れ星がもう一つ。
星が落ちる度に、2人の距離も少しずつ近づいていく。
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