待ち合わせの橋の欄干に、翔太は約束の時間になっても中々現れなかった。
花火大会の会場までここから歩いて10分。打ち上げ開始時間が近づくにつれ、どんどん人通りが増えていき、家族連れやカップルたちが、浴衣や思い思いの服装に身を包み、目の前を通り過ぎて行く。
みんな幸福そうな顔をしていた。それは俺の今の心情を映しているのかもしれないなと微笑ましかった。
カラン、コロン、と鳴り響く下駄の音が耳に心地いい。
橋を見下ろすと流れている、チョロチョロとした何の変哲もない小川も、いつもは気に留めることなんかないのに、今日は情緒ある景色に見えた。
携帯が鳴った。
❤️「もしもし」
💙「悪い、もうすぐで着く」
❤️「大丈夫だよ。気をつけて来て」
しばらくすると、橋の向こうに翔太が現れた。
しかし、1人じゃなかった。隣りに何度か見かけたことのある事務所の先輩がいる。
俺は2人に近づいた。
❤️「こんばんは」
「おお、宮舘…だっけ?悪いな。今日は帰れ」
❤️「え?」
「翔太と俺、付き合ってるんだわ」
💙「やめてくださいよ。付き合ってなんか」
「俺たちキスしたじゃん。嫌がってなかっただろ」
強烈な言葉に、俺の頭は殴られたかのような衝撃を受けた。
思わず翔太を見る。
翔太は気まずそうに横を向いている。
❤️「翔太、本当?」
💙「キスしたのは本当だけど、」
そこまで聞いて、俺は先輩に馬乗りになった。
💙「うわっ!バカ!やめろ!」
慌てて翔太が俺を引き離そうとするが、1発だけ殴ることができた。
俺の拳は先輩の鼻にクリーンヒットして、先輩は鼻からダラダラと血を流している。
「なにすんだよっ!!」
キャーーーー!
周りで悲鳴が上がった。
突き飛ばされて、今度は俺が馬乗りになられて、2発、3発と殴られた。
騒ぎを聞きつけ、集まった大人たちによって、とうとう俺たちは引き離された。
2人とも、顔に痣やら傷やらを作っている。少しだけ胸がすっとしたのは、先輩が翔太の目の前でみっともなく泣いていたことだ。
おそらく他人に本気で殴られたことがなかったんだろう。
そんな先輩に手加減されずに殴られた俺の頬は容赦なく腫れ上がり、口の中で切れた傷のせいで血の味がした。
「お前、覚えてろよ」
❤️「うるせぇ、二度と翔太に近づくな」
思い切り凄んで見せると、その先輩は逃げるように帰って行った。
💙「ばか。顔に怪我とか」
❤️「あっちもしてる」
💙「お前の方が重傷じゃん」
❤️「こんなの唾つけときゃ治る」
楽しみにしていた花火大会がもう少しで始まる。
翔太の腕を引っ張って、俺は目当ての場所へと走り出す。
もう時間がなかった。
人混みと反対方向へ、俺は翔太を引っ張って行く。
💙「どこ行くんだよ」
❤️「いいから、早く!!」
目的の神社に着き、石段を一気に駆け上がろうと途中まで登って来た時、大きく、どーーん、という音が響いた。
❤️「後ろ見てみて」
💙「…………」
そこから見えた花火の美しさを俺はたぶん一生忘れない。
すっかり日が落ちた真っ暗闇を、大小様々な火の花が彩っていく。赤、緑、青、黄色。町内の集まりだからと大して期待していなかったが、なかなか見事な光景だった。
❤️「翔太、俺とキスしよ」
💙「えっ」
❤️「あんな奴とするよりはいいでしょ」
💙「いや、まあ、それは」
最後の一尺玉が上がる瞬間に、俺は翔太に強引にキスをした。
花火の最中に、どうしてもしたかった。
パラパラ、という花火の弾ける音とともに、闇が再び夜を覆った。
ほの暗い街灯だけが2人を照らしている。
唇を離そうとしたら、翔太の方から、遠慮がちに押し返して来るのを感じた。
俺はたまらず抱きしめて、2人で薄暗がりの中しばらく抱き合った。
おわり。
コメント
31件
ああぁぁぁぁ…こういうピュアピュアな話大好物🫶 こういうの書きたい
いやーゆり組尊いなぁ